僕がいなくなった世界に君だけが残ること、君が僕のいない世界に生きること、僕のいない世界で笑うこと、全てが全て許せない。
それならいっそ僕がいなくなる時に殺してしまおう、君の心だけでも連れていこう。
怖いくらいの純愛だった。
自分から見ても他人から見ても頭がおかしいことはもうとっくに知っている。
だからこそ僕は今まで数えるくらいしか話をしていない君へ告白をした。
好きだからその時が来たら君を殺す、それだけは知っていてほしいと。
怯えて逃げてくれても良かった。
その方が殺しやすいから。
だけど。
「そうだね、ギンに殺されるんだから池に溺れちゃいけないね」
君は僕の思いを受け入れてしまった。
君に隊長と言う姿でしか見られていないと思っていたこの僕の狂った望みを聞き入れてしまった。
(私も隊長が好きだよ。
だからそうしてくれても良い)
あの時の君の返事が嘘だったのか真だったのか僕には分からない。
ただそれからずっと君が近くにいてくれることがそれだけで嬉しかったから考えることももうしない。
だってこれ以上の幸せはない、はず。
はずなのに。
「…ギン?」
一瞬抱く腕に力がこもった僕を名無しが見上げた。
そのままその首に両手を回したけれど抵抗も何も見せようとはしない。
僕のいなくなる時にこの両手に力を込める、君の最後を僕が手に入れる。
僕のいない世界に君が生きることはない。
それだけが望みだったのに。
おかしい、思いが伝わって名無しが終わりまで僕の隣にいてくれて、全部受け入れてくれて、殺されてくれるのに。
それでも、何度も夢の中に僕から逃げる名無しを見る。
名無しを殺したいと思う心のどこかで生き続けてほしいと望む僕がいる。
受け入れてほしい。
拒絶してほしい。
最後まで近くにいてほしい。
この腕を振りほどいて逃げてほしい。
僕のいない世界に生きないでほしい。
本当はどこかで笑っていてほしい。
殺してしまいたい。
生かしてしまいたい。
ああどっちが、どっちが本当の僕なんやろう。
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