なあ名無し、と呼ぶと縁側で遊んでいた君が日の光を浴びながら振り向いた。
手招きをすると何の疑いもなくすぐ側までやって来る。
「何?」
「僕の近くにおらん方が、ええんやない」
けれど、それは多分僕だけの都合だ。
名無しはいつも楽しそうに笑ってくれていても僕が近くにいることで君に人が寄りつかないことを知っている。
君の笑顔に対して誰しも笑顔で返してくれる訳ではないことを知っている。
僕は名無し一人がいれば良いけれど恐らく名無しはそうではないだろうと。
それならもっと冷たい言葉で突き放すのが自分なのに、それが出来ないとなると相当未練があるらしい。
君はそんな僕の言葉にきょとんとした顔を見せて、それでもその問いが出てきた理由はとうに知っているようだった。
「ギンはそう思うんだ」
「思う」
「どうして?」
「僕とおると、名無しも同じように避けられとるやろ」
「そうかもしれないね」
「うん」
「後は?」
「へ?」
その続きなんてない、だってそれが一番の問題だ。
それなのに名無しはこれからの僕の言葉の先にもっと凄い問題があるかのように待っている。
理由はそれだけだと言うと君は少し驚いた。
「周りの人がどうしたって良いじゃない。それくらいで私が辛いと思っていたの?」
怖い顔してそんなことを考えていたなんて、と君は僕が悩んでいたことを「そんなこと」扱いしてカラリと笑った。
みくびらないでちょうだいよ。
「私はねえ、きっと貴方が思っている以上に貴方が好きだよ。ギン」
ああ。
どうして君は今までの僕の全てをひっくり返すようなことを言うんだろう。
気がついたら凄くきつくその体を抱き締めていたけれど、君は文句一つ言わずにその中にいてくれて。
いつものように微笑んで僕の目を見つめてくれた。
優しい色ね、貴方夕焼けの色も、花の色も、血の色も、全部が入った色だね、と。
初めて会ったとき、君は僕にそう言った。
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