「藍染さんが嫌いやったらこないなとこまで来たりせえへんよ」
「うん」
「こないな真っ白で、寒くも暑くもなくて、さみしいさみしいとこなんかな」
「うん」
「でも楽やねん」
「あの人とおるの、ほんまに楽になってしもたんや」
この人は望遠レンズを覗きこむように世界を見ている。
地球にいるのに、遠い宇宙のどこかに地球を探している。
自分の足元にはしっかりと重力があるのに。
藍染様という重力があるのに。
「…あの葉っぱ、枯れないかな 」
「どうやろねえ…望みは薄いと思うで」
「じゃあ次は茶色の紙でやろう」
「ああ、それなら赤とか黄もー」
「名無し」
また背後から声がした。
私は霊圧とかそういうのがやっぱりよく分からないから、市丸様みたいにある程度来訪の予想がつかないと全く誰が来たか分からない。
振り返った所に立っていたのは、眠たいのか不機嫌そうなウルキオラだった。
「へえ、こない遅くに君と会うのは初めてやなあ」
「…そうですね。名無し、こんな時間に何をしている」
「草」
「草?」
「草を見たくなったから」
手招きして窓際に呼ぶと、不服そうにしながらも近づいてきてくれた。
「あれあれ」
「またくだらんことでもやっていたのだろうが…」
そう呟きながら外にある妙な木を見たとき、私が何をしたのか一瞬で分かったらしく、より一層顔をしかめた。
そのまま私の顔を見て、もう一度妙な緑まみれの木に目をやる。
「相変わらずお前の頭は理解不能だ」
「そっかー」
「ウルはこういう無駄なことが出来へんもんなあ」
「…そのようなもの必要ありません」
「そらそうや」
そう言って市丸様は楽しそうに肩をすくめた。
「無駄な事が出来るんは、人間くらいなんやから」
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