「にしてもあのウルが従属官つけた言うからどないな子つけたんやろ思うたけど、名無しちゃん見た時はびっくりしたでー僕」
「あー私もびっくりした」
「名無しちゃんなりたかったんやないの?」
「ううん、何も言ったことない」
へええー、と市丸様が大げさに驚いた声を出す。
「ウルは何でも出来よるしなあ。正直あの子以上に何か出来る子っておらんから、絶対そんなん持たへんと思っとったよ」
「私ウルキオラよりできること何もないよ」
「でも気にしたことあらへんやろ」
「うん」
「まあそういうとこやろね」
そういうとこかーと適当に返事をしたけど、市丸様は一向に構わないらしい。
ウルキオラより出来ることなんて一つもないけど、今はとりあえず草っぽいものが見られているからそれでいい。
見上げた月は今日も立派なくらい丸々していて、昨日一昨日と同じように明日も明後日も欠けることなんてないんだろう。
市丸様はそんな月が血反吐を吐くくらい嫌だと言っていた。
「私破面らしくないって皆言うけど、市丸様も死神らしくないって皆言うよ」
「やっぱりなー、僕実は死神に見せかけた人間やねん。おとぎ話みたいに変な世界に紛れ込んでしもうてなあ」
「ああー、それはすごく大変だ」
「せやでー。せやから人っぽい名無しちゃんとか見とるのが好きなんやろうなあ僕」
「じゃあ死神っぽい藍染様は見てるの嫌いなんだ」
「んー…」
藍染様を引き合いに出すと、市丸様はどんなに現実味のない話をしていても戻ってくる。
思い出してしまうんじゃないかな、心のどこかに抱えている違和感とか、そういったものを。
だから私は木に色紙を貼りたくなるし、土を握ってみたくなるし、ウルキオラに笑ってほしくなる。
市丸様は、月に欠けてほしいと思う。
いつも心のどこかを冷たい考えがよぎるから。
ああ、ここは変な所だと。
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