「こんばんは」
「はいこんばんは」
ボウルを抱えて振り返った先にいたのは、深い紺色の夜着を着た市丸様。
虚夜宮の二階あたりから身を乗り出してこちらを見下ろしていた。
この人は毎晩フラフラしていると自分で言っている通り、本当にあちこち歩いているから、大体夜中に好きなことをする私とはち合わせる。
「今日は何しとるん?」
「草」
「草?」
「ここには草がないから」
どんな感じかなあと思って、と続けると、市丸様は楽しそうに笑った。
「ほんまに破面らしくないなあ、名無しちゃんは」
それが市丸様の口癖だ。
ウルキオラもよく私に同じことを言うけれど、ウルキオラは嫌そうに、市丸様は嬉しそうにそう言う。
葉を貼る作業を再開すると、それはもうちょい右やなーとかアドバイスをくれた。
破面らしいとは何なのかをよく考える。
戦いが強くて、容赦がなくて、藍染様を好きだったら破面なんだろうか。
「こないだやっとった砂を掘り進める作業、あれどないなったん?」
「1753m掘ったところでウルキオラに埋められた」
「何かおった?」
「ううん」
それは土を見たくなった時、確か一週間と三日前の話だ。
なぜお前は理論で説明しても理解できないのかとウルキオラに言われたから、理論で理解できないから実際に試すしか私にはないらしいと答えると、呆れたような複雑な顔をしていた。
よじ登って何とか高いところまで葉もどきの緑の色紙を貼り終えると、後ろで市丸様が拍手をしてくれた。
切り出した形自体が小さいから、貼り終えた白い木は葉が茂ったというより緑の毛が生えたように見える。
けどまあ一応の目的が達成できたのでそれなりに満足して市丸様のいるところまでよじ登った。
遠くから見ると小さな葉もどきがまとわりついたそれはいっそうただの緑色の木にしか見えない。
「次はもうちょい大きい葉を切ったらええな」
「あー」
うんうんと頷いて、市丸様が座っている窓穴の縁の隣に座る。
風がないので私たちの眼下にある木はゆらぎもしなかった。
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