朝目を覚ますと部屋の中の空気が濃いことに気がついた。
それが人工の香りだと分かってガバッと跳ね起きると、起きてしまったことを後悔する。
またやられた。
私が寝ているベッド以外の部屋の面積全てに色とりどりの液体と容器と香り。
香水が欲しいと言えば、これだ。



「名無し、欲しい物はあるか。」

「はい?」



ザンザスが初めてそんなことを聞いたのはもうずいぶん前のことで、その時の私は特に考えもせず何となく欲しい物を言ってみた。
確か冗談混じりでクマのぬいぐるみとでも言った気がする。
それだけで会話は終わったけど、寡黙な恋人にしては軽い質問だなあと大して気にしなかった。
その次の日のことだ。
部屋がクマのぬいぐるみで埋め尽くされていたのは。


起きてそれを見つけた時は一瞬テロか何かかと思って逃げ込んだザンザスの部屋であの男が言ったのは「行ったか」の一言だけだった。

…行ったか?

『クマが』、行ったか?



「…うん、来た」

「そうか」



その日から、ザンザスのよく分からない愛情表現が始まった。
欲しい物を尋ねるのはほとんど不定期でかなり日付が空いたと思ったら昨日聞いたよね!?な時もある。
大抵の場合私が言った物は次の日の朝には全く比喩じゃなく「有り余るくらい」これでもかと言わんばかりに詰め込まれている。
こんな労力がどこにあるんだと思ったけれどあの男の力を舐めてはいけない、電話で一言二言話すだけでクマだろうがなんだろうが運ばせるのは簡単なようだ。
そして更に困ったことに私が欲しい物を言わないと不機嫌になる(イヤもう本当に無いんだけど)。




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bkm
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