彼女は物事をよく考えようとするときに首を少しだけ斜めに傾ける。
それは特に、僕が予想外な発言をしたときに良く見られることだと知っていた。



「猫…ですか?」

「そうだよ、意外?」

「いえ、何となくマーモンさんは恒温動物は嫌いなんだと思ってました」

「そういうのを意外って言うんだよ」



ふむ、と傾けていた首が修正される。
名無しらしい「好きな生き物は何か」というありきたりな質問への僕の解答は、一応納得したようだ。

どうやら名無しはファンタズマのせいか、爬虫類系統が僕の好みだと思っていたらしい。



「トカゲも悪くないけどね、猫は犬と違って始終構わなくても平気な所が良いかな。そんな下らない質問をする暇があったら手を動かしなよ」

「はいぃ……」



せかせかキーボードを打つ作業を再開した名無しを横目で見ながら、僕も手元にある仕事に視線を戻した。






昼過ぎ、僕らはアジトの近くにあるささやかな林へ散歩に行った。



「雨上がりましたねー」

「…こんな泥だらけの道を散歩に行こうと思う君の気が知れない」



名無しの腕の中で文句を言ってもどうにもならない。
食後の散歩は日課にするべきだとか何だとか、科学的に確証のない話を彼女はよく信じる。
でも信じきるわけではなく、自分が気に入ったものだけをそれなりに信じることを知っている。

それと僕は君に抱えられているんだから歩いていないけど、これは散歩と言うのだろうか。



「まあ存分に私がズボンの裾を汚しますから大丈夫ですよ」

「君のズボンになるために犠牲になった布が哀れだね」

「実はもう靴にも結構染みだしてきていましてね」

「変な実況しないでくれる」



午前中に降り続いた雨でぬかるんだ道を名無しが踏むたび、鈍い水音が木々に響く。
足下の泥とは対照的に、周りの植物は雨の恩恵を受けてさえざえとしていた。

別に変わらない、毎日の光景だ。



「明日から僕、少しの間いないよ。任務があるから」

「ええ、前日に言いますかそれ…」

「君なんかに一週間前から教えたって何もメリットが無いよ。三日で忘れるだろ?」

「いやそんなに早く忘れる自信は…ありますけど」




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