僕が名無しと言う少女を見つけてきたのは数ヶ月ほど前の話で、その場所は小さな森の中だった。
同じ幻術者の感覚がしたからてっきり霧のリングで戦ったあの骸とか言う男かと思ったのだけど、そこにいたのは一人の女の子。
ベルと同じくらいの年に見える黒髪の少女。
緑の中でたった一つ地中から剥き出した大きな岩の上に座っていて、その姿が何だか僕を待っていたようだったから。
そのまま連れて帰って来た。


僕が術の後継者を探していたのは本当の話だ。
六道骸があのクローム髑髏とか言う存在を見つけたのと同じように、名無しはそれになりうる力を持っている感覚がした。
だから連れ帰ってヴァリアーに入れた。



「今日は超念動の練習をするよ、名無し」



名無しに与えた少し小さめの部屋の中でいつものようにそう告げると、僕と視線を合わせようとしているためなのか座ったまま無言でうなずく。
彼女は喋ることをしない。
ここに来たときに行った身体検査では何の異常も見られなかったから、恐らくは心の問題なのだと思う。

それでも僕はそんな名無しの状態をハンデだとは思わなかった。
最初こそ初めて連れてこられた環境のせいか僕への反応もぎこちなかったけれど、数ヶ月を過ごしてみるともう気になることはない。

名無しは普段無表情だけど僕といるときだけは良く笑顔を見せる。
楽しければ笑うし、術の練習が難しければ困ったような顔もする。
ただ僕は他の幹部達へやるような金の請求を名無しにはしたことがないから怒った顔と言うのはまだ見たことがなかった。



「うん、そう。そして少しずつ自分の体を上に上に上げていくんだ」

「…………」



名無しは物覚えが早かった。
先天性なのか幻術はすでに出来ていたし、今教えている超念動もすでにコツを掴んでいるみたいだ。
僕もやはりまともな神経があるから弟子の育てがいがあればそれなりに可愛い。




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bkm
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