その頃の俺にとって川というものは今ほど遠くにあるものではなかった。
魚を採りに行くこともあったしただ何の目的もなく行ったことも少なくない。
ガキなりに川は誰の所有物でもないことを知っていたんだろう、身の置き場がない時は大体その辺の小さな川にかかった桟橋に座って情けない流れを見ていた。
怒りが体に満ちているときに川に行くといつの間にかそれが消えていたことが何度もある。
自分の体の中にある炎と相反するものだからと理解していた。
川は俺の憎いものを全て流す場所だった。


夏に入りかけたある日、俺はいつものように近くにある川へ行った。
大きな森へ少し入った場所にある、人の手が加えられていない川。
情けないほど小さく浅く、茂る樹の色が映ったせいで碧色に見える水面を持っている。
周りにあるものと言っちゃ樹と苔くらいだが、その分人の気配が無いところだった。
冷涼とした雰囲気に思わず殴られて赤くなった頬に触れてみると、まだあまり熱は引いていなかった。
音もなく流れる川。
しばらくはここに来てみるかと思案しながら、片膝を抱えて水面に怒りを流していた。

それから何度かその川に来るようになったある日、初めて俺の他に川に来ている奴がいた。
別段誰のもんでも無い川に俺のだなどと言い張るつもりはなかったが、あまりにその場所を壊しそうな奴だったら追い返そうという程度には思っていた。
樹を何本か避けてたどり着いた川にいたのは女。

子供の女。

俺と同じか、いくつか下だろう。
川の淵に座って自分の近くに作った小さな溜め池を見つめている。
軽く川の近くの地面を掘ったところに水を入れ、周りを石で囲んだその溜め池を見て、すぐに採った魚を入れてあることが分かった。
俺もよくそれを作る、というより魚を採りに来た奴なら誰でもすることだ。
そいつは俺が来たことに気づいているのかいないのか、溜め池を見つめることに夢中になっていたから俺も別段何もせず桟橋に座った。
桟橋からは川の全体もそいつもよく見えた。

しばらく何も考えずにただ足下を流れる水を見ていたが、ぱしゃりとそれのはぜる音がして顔を上げるとそいつが川から上がるところだった。
ふとその時の俺と目が合うと、そいつは少しこっちへ笑った。





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bkm
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