僕はマフィア学校時代に名無しと出会った。
拾ったという方が正しいんだろう、この場合。

僕の方が年下なのに先輩として何だか妙になつかれたし、自分だけじゃ出来ないこともあったから一緒にヴァリアーに部下として連れてきた。



「もしもし君?」

『はい、私です。今日もマーモンさんの部屋と研究室と仕事部屋は平穏です。私はずっと考え事をしてました』

「そう。君の思考は別にどうだって良いけどさ」



出張として外国に来てから毎日かけている電話なので、他に特に話すこともなく切った。
名無しの最後の一言に妙な感じを覚えて粘写すると、現れたのは「atro……」。


……「黒い、影」。






―――――――…


「あ、お帰りなさいマーモンさん」



いつもと変わりない笑顔で名無しが僕を出迎えた。
特に目立つこともない、毎日見慣れてきた彼女だ。



「黒いもの」

「黒?」

「黒いもの、いるんでしょ?」



そう言うと名無しは例のわずかに首を傾げる動作の後、思いついたように自分の部屋へ走って行った。
そして戻って来たその手には、一匹の黒い仔猫。



「よく分かりましたね、どうしてですか?」



粘写したことが関係していると言うはずもなくて、毛が落ちていただとかそんなありもしない理由をつけた。
聞くと僕がここを離れている間にもう一度雨が降って、開けていた窓からこの仔猫が避難してきたのだと言う。

それでまあ、彼女らしいふっきれなさで飼うことにしてしまったらしい。
許可を求められたけど別に僕と名無しは部屋は違うのだから、それは好きにすべきだ。
名無しは動物を飼ったせいで他の生活に支障をきたすことがないことも知っている。



「飼う用具はあるのかい?」

「はい、今まで使ってたのがありますから」

「ああ、そう言えばやたら野良を拾って来ていたね君」

「青い小鳥とか白兎とか、いつも拾いますねえ。でもしばらくしたら皆いなくなってしまって…やっぱり野生が良いんでしょうか」

「安心しなよ、君の人間性に愛想がつかされただけだからさ」

「安心して良いか微妙です…」



うん、それも知っている。




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