「今日はこうして眠ろうよ。そうしたら今度は一緒にいる夢が見られるかも知れない」
「…好きにしなよ」
「うん」
名無しがしっかりとくっついてその場に横になった。
嵐の音は遠のいて、ただ名無しの体温と鼓動だけを感じる。
次の僕は、今この時の思い出をどう思うんだろう。
他の記憶のために忘れてしまうことを選ぶんだろうか、それともほんの片隅にでも置いておくんだろうか。
答えは知れているけれど。
それでも忘れたその先で、きっとまた今のように笑いながら僕の手を握って、思い出させてくれるような気がする。
嘘みたいに僕はそんな姿を過去も未来も変わらずに信じて行くんだろう。
僕が君の手を握ったことを忘れて、君が僕の手を握った頃に思い出す。
そうやってずっと、繰り返していくんだろう。
もう一度だけ少し強く名無しの指を握って、僕は彼女に会うために静かに目を閉じてみた。
指先から忘却する
それはきっと、悲しいことじゃないよ。
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bkm