ぐったりと動かない姿を直視するのがなぜか怖くて、すぐに念動でベッドへ運んでからドクターを呼んだ。
原因は疲労からの熱。
少しの間安静にしていれば問題無いと言うことだったけれど、現に問題は無くても今苦しんでいるのは名無しだ。



「名無し、辛い?」

「…………」



首をふるふると横に動かす、辛くないわけが無いのに。



「しばらくは本でも読んで大人しくしていないといけないよ」



そう言って名無しが積んだまだ読んでいない本の中から数冊を枕元に置いてやった。
確か昨日僕に見せた本はエドガー・アラン・ポーとか言う筆者のだったっけ、ずいぶん年の離れた恋人がいた小説家だった気がする。
とそこまで考えて、何もそんな意味合いで名無しが僕にあの本を見せた訳じゃないだろうと自分でたしなめた。
何だか少し滑稽だ。

その本も持ってもう一度名無しの寝ているベッドの近くへ戻ると、どこか泣きそうな表情を一瞬だけ浮かべていた。



「…不安なの?」



そう聞いてもまた首を横に振る。



「不安なら不安だって言って良いんだよ。君の周りが今までどうだったかは知らないけど、僕はそんなことで怒ったりしないよ」



すると少しだけ名無しが唇を噛んで、やがて小さく僕へ両手を伸ばした。
その手がどうしたいのかがすぐに分かったから、僕はベッドに上って名無しに大人しく抱きしめられた。
僕を抱いたまま横たわる名無しの体は思いの外華奢で腕の力も強くない。
喋らない子だから、僕が容態の変化を察してやらなきゃいけなかったのに。

気づかなかったのは自分よりも完全な体を持つ周りの人間を見るのが嫌で、フードで閉ざしてしまっていたからだろうか。




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bkm
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