一時期幹部達の間で僕が女を囲っていると言う噂が立った。
もちろんその女とは名無しのことで、別にどこかの金持ちじゃないんだから女を閉じ込めている云々の前に、ただ名無し#が引きこもり気味なだけだ。
喋れない上に全く知らない環境に連れてこられたなら与えられた部屋から出たくない気持ちも分かる。
そうすれば名無しにとって自分の世界に入ってくるのは僕だけだし、ここにはベルの様にすぐさま絡んでくる奴が大勢いるから。

名無しは僕と同じで自分の世界を壊しに来る奴が嫌いだった。


今日名無しの部屋に行くと家具なんてほとんどない真っ白な部屋で本を読んでいた。
椅子と言う物が嫌いなのか室内にそれは無く、いつも彼女は絨毯もしいていない床に座っている。
僕も名無しの隣に行って座ると英語の詩らしき文が書かれた本を見せてくれて、読み終えた本と読み終えていない本が分けてある所から読書が好きらしい。
メイドが定期的に本棚の中の本を変えるのはこの名無しの性格を知っていたからなんだろう。



「前はフランス語の本を読んでいたけど、英語も読めるのかい?」



そう聞くと名無しは頷いた。
今まで名無しが喋らないことを残念に思ったことはないけれどこの時は少しだけ惜しいと思った。
語学ほど習得しづらい物は僕の中では無いと言うのに。
それでも言葉なんて存在は曖昧で、重ねれば重ねた分だけ真実味が薄れるような気がするからやっぱり僕は今のままの名無しで良いと思う。

自分の部屋へ帰るとき、ドアの近くで「あまり部屋から出ちゃいけないよ」と言った。
これも僕が女を囲っていると思われた理由の一つだし名無しは元から外には出ない。
だけど幻術を使う術士にとって世の中の有象無象は出来るだけ知らない方が有利になるから、つまりそれだけのことだ。


次の日にまた名無しの部屋に行こうとドアの前まで行ったとき、どさりと鈍い音が一枚向こうから聞こえてきた。
その音が本が落ちるような小さなものでは無かったからすぐにドアを開けて飛び込んだ先に。名無しが部屋の真ん中で倒れていた。



「名無し!」



駆け寄った体は熱を持っていて、以前教えた術の練習をしていたらしく側には術書が置いてあった。




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bkm
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