それから。
何年も。
何年も。
名前に呪われ続けた俺は。
何年も。
呪われた日々を過ごした。
呪われているとも気づかずに。
のうのうと。
のうのうと。
何年も。
過ごした。
幸福を勘違いして。
虚言を信じ込んで。
名前に呪われ続け。
遂に全てを知った。



小雨の降る中を外へ飛び出していった。
体の奥に猛る紅蓮の炎が体の底を燻り続けていた。
車を使ったのか、よもや走りきったのかはもう覚えていない。
16歳の俺が戻ってきたのはあの川だった。
まだガキだった頃に来ただけのただのちっぽけな川、本当にどこにでもある、どこにでもあった、水が流れるだけの場所。
なのに何で、俺はここに戻ってきているんだ。
何で。



「…ザンザス君?」



何でお前はまだここにいるんだ。


白いワンピース以外、身長も顔立ちも体つきも成長している、もう川縁に魚の溜め池はない。
それでも、何でお前は何一つ変わっちゃいないんだ。
何で昔と変わらない目で変わった俺がわかる。
何で昔と変わらない笑顔で変わった俺に微笑む。
憎い、憎い憎い憎い。
桟橋に座っている体を引き落とし、首に手をかけて川の水面に叩きつけた。

あきれるほどに水底の浅い川、到底川に押し倒したところで頭の半分も水に浸からない。

名無しの髪が水に流れて、首を絞めたままついた俺の膝も川底で濡れる。
降っているのかも分からない小雨の音のように、名無しがぽつりとどうしたのと呟いた。
どうしたもこうしたもあるか。
呪われた名前を信じて生きてきて、道化師のように演じてきて、その世界が全て嘘だったならお前はどうする。
俺の存在する理由だった全てのものが哀れみと慰めで出来た虚構だったらお前はどうする。
世界で唯一の存在に見放されないためにあったものが粉々にされたらお前はどうする。
どうしてガキだったあの頃俺に違う世界を見せた。



俺は どうすればいい



叫び続けた俺の言葉を名無しはただ静かに聞いていた。
そして悲しそうに口を結んで、濡れた手で俺の頬を小さくなでた。



「…それは違うよ」



ずっと昔に聞いた声と変わらない、昨日のように思い出せるこの川にいた記憶の次の日であるかのように、何も淀みのないこいつの声。



「ザンザス君のために名前があるんだよ、名前のためにザンザス君があるんじゃないんだよ」

「…違う」



俺は、俺の名前は、俺であり続けるためにあった。
生まれたときから呪われた、狂おしいほど親しみと憎しみのこもった名前だ。
それ以外に何がある。




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bkm
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