「お前、その魚どうすんだ」

「食べるよ」

「食うもんねえのか」

「うん」

「寝るところは」

「それはある」



川縁に座って足を水に浸しながら、こともなげに答えた。
暮らしていくところはある、けれど食べ物だけがないらしい。
何だその状況はと思ったが、俺とほとんど同じだということに気がついた。
親を尋ねると、さっきまでの質問と変わらない明るさでいないと答えた。



「だからこんなにいっぱい魚いらないや。あげる」



そう言って溜め池から俺に採り方を教えるために採った二匹の魚をよこした。
他人から何かをされたことがなかったせいか一瞬俺の体が身構えたが、そいつはそんなこと微塵も気にしていないようだった。



「…あって困るもんじゃねえだろ」

「あはは、大人みたいだね。でも今日食べる分だけあれば、私はいいんだ」



ね、という見慣れない笑顔に押されて、ついにそれを受け取った。
持ち帰るときはその辺の大きな葉で包むと良いと言っていた。
次からはそうすることにした。





「お前名前は」

「名無しだよ」



その次の時に名前を聞いた。
やはりそいつは俺より先に来て魚を採り終えていて、そのせいで俺がこいつよりも先に川に入ったことは一度もない。
ついでに言うならこのとき初めてこいつは桟橋の上で俺の隣に座っていた。
別に誘ったわけではないが、川縁だとこいつの着ている服の色では命取りだろうと思ったからだ。
母親が白い服を着ているとき物凄く他の色がつくことを嫌うのを知っていた。
こいつはそんなこと気にしないだろうとは思ったが、単に俺が気になっただけだ。



「誰がつけたんだ」

「自分だよ。いい名前でしょ」



こいつ、名無しには、親がいないことを知っていたがこの様子から気を使う必要はなさそうだった。
親がいないなら自分でやるという考えは突飛だが嫌いなほうではない。



「お前名前は?」



今度は名無しが俺の口真似をして名前を聞いた。
俺の名前。
それを言おうとして口を開いたが、すぐにまた閉じた。




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bkm
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