それからはいつ俺が川に行っても先にそいつがいた。
大抵魚を取った後で、作られた溜め池にはいつも数匹魚が泳いでいた。
あまりに毎度捕まえているから誰か大人が採ったのをもらっているのかと思ったが、名前は知らないが丈の長いヒラヒラした白い服の裾をひざ上で縛っているあたり、自分で採っているようだ。
俺が魚を採るためにその川へ行ったときは何度かてこずらされ、すでに採り終わっているそいつがたびたび憎らしく感じられたこともある。
そいつは必ず俺より先に来ていたが、帰りはいつも俺が目をそらした隙にいなくなっていた。
そんな変な光景が片手の数を越えたある日。



「…どうやったらそんなに採れんだ?」



いつの間にか、ごく自然に俺はそいつにそう言っていた。
話しかけようと思って発した言葉ではない、おそらく常日頃から思っていた疑問が口をついて出たんだろう。
その瞬間しまったと思ったが、そいつは少しの間不思議そうに俺を見た後微笑んでみせた。



「簡単だよ」



それから俺がそいつに教わった採り方は少し、いやかなり簡単なものじゃなかった。



「まずこうやって川の淵に立つでしょ 」

「………」



とりあえず言われたままに桟橋から降りてそいつの近くに立つ。
俺は短パンでそいつのように服をたくし上げる必要はない。



「そして魚が流れてくるのを見るの」



そう言って水面を見る。
正直魚は流れてくるものではないと思うがそれに従う。



「で、近づいてきたらすくって終わり」



ずいぶんと簡単そうに言って終わったが、そいつの手にはしっかりと魚が握られていた。
瞬きが止まらない俺に不思議そうに笑っていたが。



「…もう一度やってみろ」

「いいよ」



川の中に立って、水の中を見つめて、魚をすくう。
そいつがやったのはたったそれだけだが、到底出来ることではない。
そのやり方を俺も何度か試してみたが、魚は流れてくるものではなく逃げるものだ。
俺ではなくこいつがおかしいと判断できるようになるまで少し時間がかかった。
結局正攻法で罠を仕掛けて採っている俺を、今度はそいつが珍しそうに見ていた。




prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -