『いらなかったら燃やして』



妹である名無しが死んだ日、机の中に入っていたのはその書き置きと一枚の羽だった。
今まで何度も死んだ後のことはためらいもせずに話してきた。
あいつは死ぬ間際になったら服も鞄も自分で燃やすから俺は何もしなくていいと、いつも念を押していた。

別にそれくらいならしてやると俺が言ったところで、あいつは言い分を変えなかった。



「私はそれくらいしか持ってないからさ」



物を欲しがらない奴だった。
執着もしない奴だった。
俺と共にボンゴレに引き取られる時も、俺が反逆を起こす時も、文句も言わずについてきた。

そんな名無しが残していったもの。

一枚の羽。



「…付けろってか」



別にてめぇが望むんなら一枚くらい増やしたって構わないが、それは死に際に残していった願いとしてはずいぶん小さすぎはしないかと。
笑いそうになって、笑えなかった。

ボスという立場上死を看取ることは出来ないだろうと分かっていた、自分の腕の中で死んでほしいとも思わない。
あいつがそれを望まなかったように。

零から百まであまりにも歪な兄妹で。





(お兄ちゃん)



「……」



それでも蘇るのは唯一の家族の自分への呼び声。
今なら分かる、どんなに陳腐で下らない言葉だとしても、お前は俺にとって大切な存在であったと。


せめて地獄で待っていろ。




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