「……ボスは、あれで良いのかしらね」



うつむくルッスーリアの顔を机に座って見上げる。
言おうとしていることは痛いほど伝わった。
部屋から出てきたボスの顔には悲しみなんて一欠けらも残っていなかった。
いつものように酒を飲んで、新聞を読んで、スクアーロをいびって。

だからつい尋ねてしまった。
名無しが死んで悲しいかどうか。

あまりに無神経で、決まり切ったそんな最低な質問を。
けれど返ってきた答えは。



「さあな」



それがボス、なんだ。



「…僕はね」

「え?」

「僕は、名無しがボスと逆の立場だったら、名無しも同じ反応をすると思うよ」



一日だけ喪に服して、次の日からは何も引きずらない。
未練なんて相手への死のはなむけとしてくれてやるんだろう。
決まっている逃れようのない死を見つめることを恐れる理由はどこにもない。

だから「悲しい」や「悲しくない」ではない。
そんな物はもうここにはないから。



「さあな」


ボスは僕らよりもずっと早くから名無しの体のことを知っていたんだから、覚悟なんてとうに出来ていたんだろう。

もしかして名無しが魔法使いになってまでこんな僕らと任務を行っていたのは、願わくばボスと同じ暗殺者として死にたかったからなのかもしれない。

それは叶わなかったけど。



「名無しとボスは、きっとこれだけで良いんだよ」

「……そうね」

「うん」



そこまで言って僕は、魔法使いに一番最初に気に入られた理由が分かった気がした。
自分が死んだときにボスのやり方を分かってくれる存在を、自分の死を諭してくれる存在を、多分僕に選んだんだ。

初めて言葉を交わした時に魔法使いが発した「よろしく」は、きっと、こういう呪文だったんだろう。




ご利用の魔法は、期限


 


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bkm
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