何の、ことだろう。

ふわふわした、とりとめのない単語ばかりで、何となく意味は理解できても現実感が伴わなかった。
だから魔法使いがいつも通り任務の下見に行ったあとで尋ねたルッスーリアの質問に、知らず知らずに耳を傾けた。



「ボス、点滴って名無しちゃん体でも弱いの?」

「別に弱くねえ」

「じゃあ何で…」

「…まあ、」




「あいつはそう長く生きられねえがな」



あんまり。
ボスが僕らに任務を伝えるときと何も変わらない口調で言ったから。
ボスが言ったのは真実や現実じゃなくて八年ぶりの冗談か、と本気で思った。

でもそれは違う。
僕らの生死ならともかく、ボスは魔法使いのことでそんな冗談は言わないはずだ。
僕はボスと名無しのことを何も知らないけど、それだけは確信できた。
この場にいた皆も同じだったと思う。


それから魔法使いがいつもより時間をかけて帰ってきて、それはより明確になった。



「痛たたー」

「…何やりやがったんだてめぇ」



魔法使いは初めて怪我をして帰ってきた。
聞けば不意打ちで銃を持ったターゲットに襲われて、撃たれそうになったらしい。
左脚が真っ赤だった。



「で、撃たれたのか」

「いや大丈夫、頭撃たれそうだったから相手の銃を蹴り飛ばしたらドーンっとね」

「撃たれたんじゃねえか」



多分この兄妹にシリアスな時なんてないんだろうと思った。



「マーモン、見てやれ」

「うん」



魔法使いは僕らと同じことができるし、僕らと違う存在にもなれるけど、自分の傷は治せないみたいだった。
ボスと同じ、破壊専門の魔法ばかり持っている。

それでもその目はボスのように熱く凍てついてはいなかった。



「名無し、もう少し体は大事にしないと」

「んー…でもギリギリまで使いきっちゃいたいしね」



そう答えたから。
ああそうなんだと思った。

やっぱりボスと名無しはどこまでも兄妹だったから、死に対する反応も同じで淡泊だった。
表情一つ変えずに僕らへ妹の死期を教えた彼と同じで。

それから##NAME1##はほかの幹部とも打ち解けてきた。
僕の次に仲良くなったのはベルだった。



「お、変な魔法使いはっけーん。うしし殺ろうぜ♪」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

「タヌキ寝入りすんなっつの」

「じゃあナイフの本数制限してね」




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