今日も勢いよく扉が開かれて、変わらない姿のまま彼女はやってくる。

肩にかけている学生鞄も一緒。
扉の開け方も一緒。
浮かべている笑顔さえ一緒。



「今日はどこ?お兄ちゃん」

「この場所だ」

「ん、行ってきまーす」



この日も普段街中を歩く一般人と同じ雰囲気のまま、彼女は僕らと同じことを済ませに行く。
恐らくボスから借りた同じ武器を、同じ行為のために使う。

それなのに来る時も帰る時も彼女がまとっているのは笑ってしまうほど平凡な、表の世界を生きる大勢と同じ空気で、僕は彼女を魔法使いと呼んでしまうことを疑わない。



「マーモンって言うの?かわいー」



光栄かどうかは分からないけれど、魔法使いに一番最初に気に入られたのは僕だった。



「そうだよ。魔法使いは何て言う名前なの?」

「んー、魔法使いって私のこと?私は名無しって言うんだよ。よろしくマーモン」

「よろしく名無し」



あの時、何がよろしくだったのかは分からなかった。

名無しはボスと話している時が一番楽しそうだった。
ボスは相変わらず怖い顔だったけど、名無しが相手だと口数は多かった。

最初の時に驚きこそしたけれど、今はもう名無しとボスが兄妹だと聞いて疑う幹部はいない。
見た目や口調は違っても、どうしようもなく二人は兄妹だった。
抱えている雰囲気や過ごしている世界さえ違うのに、僕らはいつも二人の間に似通う空気をかぎ取った。

それは時折見つめる方向であったり、笑う時の口角の持ちあがり方であったり、ため息の種類であったり。
たかがそれだけのこと、でも決して他人と似るはずのないところによく現れるんだ。

そんな二人だったから、久しぶりに名無しが魔法使いとして呼びだされた時。

僕らはボスが何を言っているのか分からなかった。



「やほ、お兄ちゃん。点滴中には呼ばないでよ、サボっちゃったよ」

「サボんじゃねえよ…」

「いいのいいの。良くなるわけでもないし?」

「悪くもならねえだろ」

「いやーなるかもよ。お兄ちゃんに呼ばれてんのに点滴受けてたら、ストレスで」





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