「ボスにお尋ねするか」

「どこのマフィアの子かって?」

「でもあいつ殺し屋とか請負屋っぽくなくね?」

「やだ、どう見たってパンピーじゃないのよ」

「パンピーって何だぁ」

「一般ピープルの略よ。あの子から裏の世界のにおい、しないじゃない」



ルッスーリアの言うとおり、彼女からこちら側の気配は全く感じられない。
時々とは言え僕らと同じことをしているのに、まるでそういった黒い雰囲気が霧散していくように彼女は表の世界になじんでいた。

決してその世界に戻れない僕らにとっては、それが魔法のようにさえ思えていた。



数日後、彼女の担当になっていた一階がしっかり片づけられていたのもあって、例の任務は無事成功した。
その翌日、ボスへ武器を返しに来たその子は全くピンピンの無傷だった。



「お前本気でヴァリアーに入る気ねえのか」

「まあ学校行きたいしね。任務はいつでも手伝うからさ、授業中は呼びださないでよ。お兄ちゃん」



その瞬間、幹部全員が各々持っていたものを床に落とした。



「お前の授業時間なんざ知るか」

「鬼畜兄だわー。じゃあまたね」



僕らに向かっても手を振りながら、『彼女』は軽やかに扉の向こうに消えていった。



「…おい、てめぇらいつまで突っ立ってんだ」

「それはこっちの台詞だよボス…」

「落ち着けぇマーモン、全然こっちの台詞じゃねぇ」



しばらく固まっていた体がボスの一言で何とか現実に帰ってきた。
床に落とした物を拾いながら、さきほどまでいた彼女の顔とボスの顔を必死に記憶の中で見比べる。

恐らく他の幹部達も皆同じことをやっているんだろう。



「え…全然似てなくね?」

「あいつは母親似だ…言ってなかったか?」

「言ってねーし聞いてねーし…」



なら今覚えておけ、と無茶なことを言われた。
それでもあまりに突然の出来事に、皆うなずくことしかできなかった。

後々聞くと、スクアーロはちゃんと知っていたらしい。
さっさと言わずによけいな悩みを増えさせた罰として後から全員に袋叩きにされていた。

けどとりあえず彼女の立ち位置が分かったので、皆一様に親近感は湧いたようだった。


この日から僕らと魔法使いとの交流が始まる。


 


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