「一番風呂はもらったあああ!」
「何いぃ!?」
「やだ!気を抜いてたわ!」
「王子二番かよー」
「ちゃっかり二番を取るな貴様」
「戻せ時間を戻せ」
「……ねえ。
名無しって女湯でしょ」
まさかのミステリー2まだ多少濡れてる髪をタオルで拭きながら、てくてくと廊下を歩いていた。
はーさっぱりさっぱり。
それにしてもさっきは私は女湯って分かってるのに皆ノリが良かったな。
私たちの部隊はそういうことを大事にしていったら良いと思う。
大事な何かと引き換えに。「あー…何かすごくアイス食べたくなってきた」
風呂上がりはアイスか牛乳と相場が決まっているけど、ベルが妙なポリシーを持ってるせいで牛乳しか認められてないんだよね。
身長気にしてんのかしら、成長期だから大丈夫だよベル。
自分の部屋の冷蔵庫に買い置きしたアイスがあったから、お風呂から上がっても皆のいる談話室に行かずに部屋へ向かった。
ガチャッ
「あ、名無しお帰りー」
「あれ?ベル来てたん?」
部屋に入ると今さっき頭に浮かんだベルがソファーに座ってた。
別に部屋に誰かが来てるのは珍しくないし、髪を拭いたタオルもそのままに向かいのソファーに座ろうとした。
途端。
見てはいけないものを見てしまった。
ピキッと笑顔を固まらせたまま、体の巻き戻しボタンを押して廊下まで戻る。
思いっきり閉じたドアにもたれると冷や汗が髪の水滴と混じってダラダラ。
……待て。
待て待て待て。
今見たのをもう一度思い出してみよう。
そうだ、うん。
奴はシャツの模様が縦縞だった。「ひでー。何で出てくの」
そんな誰かさんにそっくりな声がドアの向こうから聞こえてきたけどすみません原因はあなた。
ショート寸前な思考回路をぐるぐるさせていた時、突然足元から声がした。
「顔色悪いよ名無し」
「マっ……」
突然眼下に現れたマーモンを危うく踏み潰すところだった。
「…あー、マーモン。
この中にいる人誰か知ってる?」
「知ってるよ」
「……ベル兄、だよね」
「そうだね。
【ベルツォーネ:ベルの双子の兄で一度弟に殺されかけた貴重な経験を持つ第一王子】だね」
「いやそんな
Wikipediaみたいな。」
そして本当に問題はそこじゃない。
な ん で 私の部屋にいらっしゃるんでしょうか。
「せっかく会いに来たのになー」
「うわあ!?」
いきなり真横で声がした。
いいいいつの間に隣に!?
この人壁抜け能力でも持ってんのか!
「ど、どうやってここに入ったんさベル兄…」
「ん?
協力者がいたから」
協力者。
前回の侵入でヴァリアー幹部(特にボスとベル)の敵みたいになってるベル兄に協力的なのは…。
「まあ僕だけだろうね」
「そうだねマーモン」今回は間違いなく足元にいるこの赤ん坊を踏みつけそうになった。
また私を売ったな。
幹部が簡単に番号変えられないの知ってて私の携帯番号売ったり、混乱起きるの分かっててベル兄逃がしたり。
今日は私服だけど、ベル兄が前着てたヴァリアーの隊服もマーモンが売ったんじゃないかなマジで。
「大体何でベル兄はここに――」
「名無し、名無し」
問い詰めようとした矢先にちょいちょいと足を引っ張られた。
「何マーモン」
「今粘写したんだけどさ。
ベルがこっちに向かって来てるよ」
…はい?
ベルが?
ベル兄と顔を合わせたら三秒で大喧嘩を繰り広げるベルが?
「俺の弟元気?
再会の涙くらい流してやってもいーけど。」
「
赤い液体しか流れないからダメ」
洒落にならない、何が何でもこの二人を会わせちゃダメだ。
「そこの角を曲がってくる」
「あ、あとどれくらい?」
んー…と粘写したトイレットペーパーを見てしばし考えた後。
「三秒くらいか」
「わあおう!」すぐさま左手でマーモン、右手でベル兄の腕をひっ掴んで部屋になだれ込んだ。
私、今足でドアを開閉しましたよ。
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