ボスのいない夕食後のアジト内。
この時間は時々暇を持て余した幹部の遊びタイムになるから、誰かと誰かが生死をかけた鬼ごっこをやっていてもおかしくない。
そんな時のため(?)に、私達の携帯はトランシーバー内蔵型になっている。
「こちら名無し、中央北廊下にてマーモン一体破壊。どーぞ」
『こちら王子ー、俺もう十二体目ー。どーぞ』
『てめぇ、ちゃんと確認してから壊せよぉ!どうぞぉ!』
『もう、スクアーロの声が大きすぎて他の声が聞こえないじゃないのよ。マーモン、あとどれくらい?』
『あと三十体はいるはずだね…どうぞ』
『ぐ…ぐわああああああ!』
「あ、レヴィやられたね。どーぞ」
『放っておけぇ、どうぞ』
そう会話していた途端、私の目の前をこの日何体目かのマーモンが通り過ぎて行った。
隣で一緒に無線機をいじっているマーモンを見つめながら、なぜこんなカオスな空間になってしまったのか、もう頭が思い出すことも放棄していた。
*僕らは繁殖しているパープル*
「実験に失敗した…」
なんてことを夕食後にいきなりマーモンが言い出して、でもそんなことは珍しくないんだから気にするな的なことを言った気がする。
「どんな実験だったの?」
「…僕は幻覚で大人数に分裂できるだろう?」
「ああ、あれ」
ぶわっと大勢のマーモンが生まれて、あちこちちょろちょろと飛び回ってる技。
まあ幻覚だからボスとか機械のモスカとかには効かないんだけど。
「うん。そんな存在にも効果があるように、幻覚を実体化出来ないかと思ったんだ」
「それって、マーモンのクローンってこと?」
「いや、見えるし触れるけれど、僕の意思で消したり増やしたり出来るような……そんなものだよ」
マーモンが慎重に専門用語を使わずに説明してくれたおかげで何となく理解はした。
けれどそれの何に問題が起きたのか聞こうとしたら。
ガチャッ
「なー、なんかマーモンが話あるっつーんだけどー」
唐突にベルが部屋に入って来た。
その右肩に、マーモンを乗せて。
「……ベル、そのマーモン誰?」
「へ?え、てかなんで名無しの隣にもマーモンいんの?」
ガチャッ
「ちょっと皆〜マーモンが話があるんですって〜」
ガチャッ
「うぉおい、幹部集めろぉ。マーモンが話してぇことがあるとよぉ」
空気が止まった。
同じく肩にそれぞれマーモンを乗せているベル、ルッスーリア、スクアーロが私の隣に座っているマーモンを見つめ、次いでお互いのマーモンを見つけた。
時間も止まった。
「……こういう事だよ」
いやどういう事だ。
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