深夜1時。
世の中の一般人がどうかは知らねえが一向に眠気が来ない日ってもんはこの俺にもあるわけで。
それが何日も続くならどうにかしようとは思うだろうが、年に一度くらいの頻度で来られると大して対策を練ってるわけがねえ。
数分ほど水代わりに酒を飲みながら考えた結果。
何でか俺は名無しの部屋の前に立っていた。
ボスと遊ぼう(夜)「くかー…」
「……」
鍵もかけていない不用心な名無しの部屋に入り込むと当の本人は見ていて気持ちの良いくらいに安眠していやがった。
テメェ、生涯忠誠を誓ったボスを差し置いて熟睡とはいい度胸じゃねえか。
「おい名無し」
「くー…」
「くーじゃねえ。起きろ」
「けー…」
何だか馬鹿にされている感じがしやがったから、名無しの近くに置いてある水族館に行った時に買ってきたシャチのぬいぐるみでぶっ叩いて起こした。
余談だがそのシャチは俺に似ていて、買う際にサメのぬいぐるみとどっちにするかかなり迷ったらしい。
いやそこは即決だろ。
「う…あれ、何でボスがいんの」
「起きたか」
「そりゃ何かで頭何回も叩かれたら起き…ってシャチイィ!」
見るとぶっ叩くのに使ったシャチが大分弱っていた。
つっても多少へにゃりとしただけだが、名無しが大げさに「私が水槽で飼わなかったからああ!」と抱きしめていた。
こいつのこういう行動が真剣なのかつっこみ待ちなのかを判断できるようになるのが長く上司として付き合っていくために必要なものだと思う。
「今はシャチより俺だ」
「あ、そういやそうか。こんな夜更けにどしたんボス」
「眠れねえ」
それを聞いた名無しが一瞬「ええええー」という顔になったが、睨み返したらすぐに解決策でも考えるふりをした。
いや、ふりだから考えちゃいねえんだろうが。
「よしじゃあ一緒に寝てみよう。へいボスカマーン」
「誰が行くか」
「まっひどい。照れてんのか、似合わないことに照れちゃってるのかザンザス様は」
「照れてねえよ」
「照れてますー。私の中でのボスは手もつなげないシャイボーイだもん」
「何なんだテメェの中の俺像は。相当気持ち悪いな」
「うん、私もそう思った」
もう一発シャチでぶっ叩きたくなった時、名無しが何かを思い出したように拳で手のひらを叩いた。(古い)
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