口端のつり上げ方があの兄弟とそっくりだった。
薄い緑の瞳が嬉しそうに細まる。
ベル兄やベルの前髪の下には、こんな目がはまっているのかも知れない。
「もう、親子で鬼ごっこなんてベルフェゴール達ともしたことありませんよ。
本当に名無しさんはお茶目なんだから」
「いやいやさりげなく私を親子の域に含まんといてください!」
「何言ってるんです、もうすぐ血の繋がった本物の親子になれるわ…薄暗い素敵な地下室で」
お母様キャラ立ってんなあああ!にしてもこのままだと射殺されるか地下室に連行されるかしかない。
あれ?どっちを選んでも私死ぬ?
嫌だ!せめてボスにこんな野郎がヴァリアーですみませんでしたって謝ってから死にたい!
ボスに駄菓子買うときに札束は出しちゃ駄目だって念を推してから死にたい!!
「うわああああん!
ボスどこにいんのさー!!」
ドゴンッ!叫んだ瞬間、私が背面に追いつめられていた廊下の壁が爆風を巻き起こしながら砕け散った。
砂ぼこりが立ち込め、瓦礫がパラパラと転がる。
そして人一人分が通れるほどの壁の穴から。
ボスが手をかけてこちらへ踏み込んできた。
「……ボスゥ!?」
あまりに突然のことに自分に召喚能力があるのか疑ったけど、ボスが両手に構えた銃の砂を払っていた辺り実力行使らしい。
「…んなとこにいやがったのか」
「あ、うん。
てかボスは何でここが……」
「教えられたからな」
あ、スクアーロが携帯で誘導したのか。
壁をぶち破ってきたボスに迷わずSPが銃を向けたけど、一瞬の早業でボスが相手の銃を撃ち落とした。
かっけえ!
珍しくボスがかっけえ!
「そうだ!
私ボスに言いたいことあった!」
「首領はあの女だな。」
「スルー早ッ!
ちょちょボス待って!あれお母様だから!」
「てめぇのか」
「そうよ!」
「王妃シャラップ!
ベルと!ベル兄の!」
「そーそー」
いつの間にか、というのがぴったりなくらいさりげなくベル兄がお妃の横に並んでいた。
ボスの眉間に皺が寄るのが見える。
「王妃はヴァリアーのボスさんから欲しいものがあるってさ」
「……何だ」
「ベルフェゴールを返してください」
きっぱりと王妃は告げた。
「あの子はもう滅多に帰って来きません、あの子の家はここなのに。いつまでもあんな危ない仕事をさせておくわけにもいけないもの、いつかは返していただくつもりでした。
それが駄目ならせめて私の娘として名無しさんをいただきます」
最後の一言がすごいことになってるけど…やっぱり、王妃の本当の目的はベルに帰って来てもらうことだったんだ。
私が城に住んだらベルが帰って来るかも、って言ってたし。
え、そのためにベル兄に私をさらわせたってことは…。
「簡単なお話のはずです。
無事にこの城から出たければどちらかを私にくだされば良い。まだまだSPはいるんですから」
そう続けた王妃へ、ボスは「ああ?」と僅かに唸って。
「どっちも俺のだ。
誰がてめぇにやるか」
きっぱりとそう答えた。
その瞬間、見て分かるほど王妃が目つきを険しくし、右手を振りおろす。
それと同時に私達の左右に広がる廊下の端から、大勢のSP達がこちらへ迫ってきた。
「うわっ…」
「…ちっ」
ボスが私の首根っこをつかんで背面に隠し、両手をクロスさせて両方向に銃を構えたとき。
その声は聞こえた。
「あら、まだまだこんなにいるんじゃな〜い♪」
蹴りらしき技が炸裂する音が大きく廊下に響くと、右側の廊下から走ってきていたSPの半分くらいが一斉に膝をついた。
そのおかげで見えた声の主は案の定というか、やっぱりルッスーリア。
「ルッスーリア!」
「まあボスに名無し、やっと見つけわ。
必死に探してたのよ〜?」
その割にはしっかり戦利品をかついでいらっしゃる残りも数秒で片づけていた彼女に気を取られていたけど、反対側からもSPは来ていたことを思い出して振り返ると。
「だああまだこんなにいんのかぁ!
お前んとこ何人似たSPがいやがんだ!」
「んー、あと100人くらいじゃね?」
「絶望的な数字だね、レヴィ後ろ」
「ふん!成功率でいえば40%だな」
なんか勢揃いしていた。
「おいボス!名無し!無事かぁ!?」
「スクアーロ、ヘリは!?」
「操縦士が戦ってるぜぇ!」
操縦士強おおおお!
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