城内。
想像していたよりもはるかに豪華な装飾の中、私はベル兄に連れられて何やら大きな部屋に通されています。
城をなめてた…いや王族をなめてた…何だろうこの超キンキラキンな部屋。
ここに来るまであちこち部屋を見せてもらったけど全部が全部こんな感じ。
「……ベル兄」
「んー?」
何やらふわっふわなソファに座らされている私の隣で、さも普通そうにベル兄がくつろいでいた。
「今までヴァリア―を成金部隊だと思ってたけど、まだ私の金銭感覚はまともだった……」
「?
別にこれくらい普通だろ」
出たあああ王子発言。
そうだよなあ、子供の頃からこういう場所で過ごしてきたらこれが普通になるよなあ。
出るお茶すっごい高級だし、食事なんてもちろんそうだろうし。
あれ、じゃあ私達と同じ水準で生活できてるベルって何だ?
前マックうまいって言ってたよ?……慣れなのかな、いやでもベルは庶民的な食べ物好きだよね。
コンビニのお菓子とか。
悶々と隣にいる正式王子と私達の隣にいた第二王子について考えていたとき、前方で扉がバタァン!と開かれた音がした。
驚いて顔をあげるとそこにいたのは一人の女性。
走ってきたのか息を荒げて、でも私を見ると分かりやすいくらいに顔を輝かせた。
「あ、どうも…」
「キャアアアアア!」
「え…ぐはっ!」
そして悲鳴じゃない、歓声に近いものをあげながら思いっきり私に飛びつきタックルを喰らわせた。
ちょ、椅子の背もたれが固い素材だったら私は挟まれて事切れていたかもしれない。
突然の攻撃に思わず身構えたけれど、めちゃくちゃ近くにあるその女の人の喜びの顔で、ちょっと激しく抱きつかれただけなんだと分かる。
ていうか何だこの美人!人か!?
「ああなんて可愛らしいのかしら!夢にまで見た女の子…素敵!素敵です次期王!」
私に抱きついてキャイキャイはしゃぐ綺麗な金髪の女の人。
どことなくベル達の面影があるように見える。
…いや、面影って言っても髪と輪郭くらいしか知らないけど。
そして次期王とはベル兄のことか。
「……え、ベル達にお姉さんっていないよね」
「いねーけど?」
じゃあこれはもしかしてというかやっぱりというか、お母様…か。
でもこれはどう見ても母親っていう外見じゃない。
異様に若い。
異様に美人。
戸惑っている私も全く気にせず、(おそらく)ベル母は私に抱きついたままテンションが緩まない様子。
「ただいま王妃」
「ええ!どうかしら次期王、似合う?
私とこの子は似合うかしら?
ああ本当に素敵!夢が叶ったわ!」
「うん、ちょー似合ってる」
どこかいつもと違う笑みを浮かべるベル兄の袖をくいくい引っ張って、もしやお母様と合わせるために連れてきたのか尋ねてみた。
半分当たり、と答えられた。
そんなベル兄を不思議に思っていると、視線を戻した時にはすでに机の上に豪華なティーパーティーセットが用意されていた。
恐るべし王室…。
「あら、私ったら挨拶もなしに…ごめんなさいね名無しさん。
私はこの国の王妃でベルフェゴールとベルツォーネの母親です」
おおやっぱりお母様か…それにしても美人だなあこの人。
初めまして、と挨拶を返すと双子の母は優しく微笑んだ。
高貴だ、雰囲気が高貴だ。
「お茶にしましょう名無しさん、私一度女の子とお茶を飲みたかったんです。マカロンはお好き?」
「あ、はい」
「そうよね!女の子ですものね!
ちょっと誰かー!我が国中のマカロンを手配してちょうだいー!!」
「あああお気づかいなく!お気づかいなくう!」
必死でお母様を止める私を見ながらベル兄が腹を抱えて笑って、お母様が少し不貞腐れた。
王妃はどうやら話すのが好きらしい。
ベルのこととかこの城のこととか、尽きることなくたくさん私に教えてくれる。
「それでね、王が若くして亡くなったから女手一つでベルフェゴール達を……」
「まー……」
「騙されんな名無し。女手一つってもメイド手100人って意味だから」
「あら!
私だってちゃんと紅茶を飲みながら見守っていましたよ!」
ぷんすか、と可愛らしく頬を膨らませた王妃のおしゃべりの内容はベル6:王3:城1くらいの割合で、やっぱり離れていると心配なのかベルのことをよく聞かれた。
あとは庶民の生活がめずらしいのか、私のことも。
「それでね、もう百回くらい言ったけど、私女の子が欲しかったの。
だから名無しさん、私の娘になりません?」
「あはは、良いですね」
「じゃあなりましょう!」
「へ?」
ずずいっと前のめりに出てきた王妃に思わず少し身を引いてしまった。
さっきまでとは比べ物にならないくらい目がランランと光っている。
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