ここはヴァリアー! | ナノ






「一段落終わりー」と嬉しそうな声をあげているベル兄とは裏腹に、私はへたりとその場に座り込んでいた。

どうしよう。



「後はー…って名無し?
別に殺しまではしねーからんなビビんなよ」

「いやそうじゃないんだ……」



おそらく誘拐と呼べるものをされたけれど、死線をくぐってるおかげでそこはあまり心配していない。
そんなことじゃあ私はヘタれない。

忌むべきことは、ボスに、ボスに…!





「ボスに無断で夜間外出しちゃったあああああ!」

そっちかよ



両手をついてうわあああと嘆いている私の頭を、同情心からかベル兄が撫でてくれた。
なんで私誘拐した人に慰められているんだろう。



「てかその年で外出制限あんの?」

「私とベルとマーモンには課せられてる。
ああ、門限だって夕方の5時までなのに…」

「5時ってお前…小4じゃん



そうなんだよ、うち意外と厳しいんだよ。

任務以外で外出して夜遅く帰ろうものならもれなくゲンコツが待ってるんだよ。



「ま、いいじゃん。全部オレのせいなんだしお前は怒られねーっしょ」

「…何かベル兄って割り切ってるね。」

「しししっ、そりゃどーも」



いや、割り切ってるっていうか、何かこう…



何かに思いをはせようとしたとき、突然起きたヘリの大きな傾きをベル兄が私を引き寄せることで抑えた。

何事かと辺りを見渡す私を抱えて立たせて、側面についてる小さな窓のほうへ連れて行く。





「到着しました姫」





かしこまって、だけど声色はふざけて、ベル兄がうながした窓の先を見ると。
巨大な石造りの建物の外観が視界に飛び込んできた。

それは間違いなく、城。


西洋の城と聞いて思い浮かべた形そのままの姿で、ヘリのライトに照らされていた。
ベル兄の腕の中というのも忘れて初めて見たそれに釘付けになる。



「…これって…」

「そ、俺の。正確には俺とあいつの城」



本当に王子だったんだなあ…いやここまできてそりゃないだろうけど。
それでも、一つだけ聞いてみたいことがある。

本当は結構気になってたんだけど言わなかったこと。





「ヘリで数分で着くって…近くない?

「うん、俺もそう思う」









所変わってヴァリアーアジト。

いつも食事を取っているはずの長机の上にしっかり縛られたマーモンが乗せられ、それを囲んで幹部たちが座っていた。



「じゃあ要するにだなぁ……」



散々口々に叫んだと見えて、息切れが起きているスクアーロが。



「マーモンはベルの兄貴にもう一度ここに来たいから手伝うように言われて」



マーモンがうなずく。



「手伝った結果名無しの部屋に侵入したのをベルが見つけて」



ベルがうなずく。



「……名無しが無事さらわれましたとぉ」



ザンザスが机を蹴り上げる。

あの後マーモンを縛ってスクアーロ達のいる部屋へ名無しがさらわれたことを告げながら駆けこんだベル。
冗談扱いされる中で唯一すぐに真意を尋ねたのがザンザスだった。



「でもまさか名無しちゃんがさらわれるなんてねえ」

「…あいつ無駄に運動神経良いんだよ。
ゴキブリなだけに」

「というわけだぁマーモン。
責任とってベルの兄貴が向かった場所粘写しろぉ」

「仕方ないね。
僕もここに来たいとは聞いていたけど、まさか誘拐まですると思わなかったし」



さすがに責任を感じているらしく、案外素直に受け入れる。
チーンといつものように粘写を行った。

結果。



「出たよ。
……『alcazar』」

「……『お城』、よね?」



ルッスーリアの一言に一瞬ベルから血の気が引いた、ように見えた。
ヴァリア―幹部の中でも当然「城」といえば心当たりは一つしかない。



「ベルの城、かぁ」

「え、ちょ、マジ?」

「それ以外には無いだろうな」



それを聞いておいおいおい、といつもの笑みを浮かべているのに冷や汗が流れる。



「あら、でもどこか変なところよりは良かったかもしれないわ」

「そうだね。
ただ単に名無しを城に連れて行きたかっただけかもしれないし」

「……ヤバい……」





ぽつりと呟いたベルの笑いが歪んでいた。
確信があった。

あの男はそれだけのためにお気に入りをさらって行ったりはしない。


名無しを望んだのは多分その上の、もっと大きな存在だ。



「ヤバいってなにが?
お兄様なら名無しちゃんに命の危険とかは…」

「いや、あいつだけじゃねーんだって!」



そりゃあいつもそこそこイカれてるけど、と前提において。



「もう一人ヤバいのが城にいるんだよ…!」



 



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