ここはヴァリアー! | ナノ





「にしし♪
名無し積極的ー」

「んなこと言ってる場合じゃ……!」




コンコン




不意に響いたノックの音で確実に体が固まった。

やば、今動いたら何か音を立てて崩れそう。



「名無しー?
何かボスが呼んでっけど」



それは紛れもなくベル(本物)の声。

ちくしょう、何もこんなときに私を呼ばなくったってボス。
わざわざベルを使いに出させなくったってボス。



「うぇ…もがっ」

「分かったー。
着替えたら行くから先に行っててー」

「(マーモン!?)」



明らかに動揺している声で答えそうになった時、ベル兄に口を塞がれて代わりに返事をしたのは何とマーモン。

ああ、そう言えばかなり前、スクアーロが「あいつ名無しの声真似が異様にうめぇぞぉ」とか言ってたな。


本当だったんだあれ…。




「もがーっ」

「名無し、しー」



いや静かにってのは分かったけど顔が異様に近いですお兄様!

とにかくこのままベルが去ってくれれば大乱闘な事態は免れるかも知れないし、静かにしていよう…。



「あー。じゃあ先行ってんね」

「うん」



…よし、これで何とか……


ガチャッ


「とか言うと思ったら大間違いだしね。」


フェイントオオオォ!





【今現在同僚のベル君が見ていると思われる状況】

・なぜかいる実兄(過去一回侵入経験あり)

・そいつに拘束されている同僚(女)

・そしてなぜか同僚(女)の声真似をしていた同僚(赤ん坊)


以上の結果から。





「…んのゴキブリ兄貴い!!」

「にししし!」



大乱闘発生。

これだけは避けたかったのにさああ!

身を安全な場所に移動しようと周りを見渡したけれど、がっつりベル兄の右腕が私の首をロックしているせいで動きようが無かった。



「離せベル兄!」

「無理だね」



あっさりそう答えて空いたベルにナイフを投げながら部屋奥の窓際へ連れていく。
もがく腕の隙間で、私がいるために迂濶にベル兄へナイフが投げられないベルの姿が見えた。



性根はどうであれ腐っても一応ヴァリアー幹部、拘束された時の身の守り方くらいは心得ているはずなのに。

肘もロック、頭もロック、足もロック、あらゆる攻撃がすんでのところで全てロック。



「ちょっ…ベル!ここにロックマンが!

「そいつ俺並みの反射神経持ってっから……」

「俺的にはロックマン呼ばわりをつっこんで欲しかった」



そこまで言ったのと同時に私の口が再び手で塞がれて声がくぐもった。
静かに、とこの距離だけで聞こえる声でベル兄が呟く。

静かにって、何でー…



一瞬だけ訪れた沈黙に、どこか遠くから機械音が聞こえてきた。

何だろうこれ、バリバリバリって。


だんだんその音が大きくなってきてついに真後ろの窓から聞こえるほどになったとき、立ち位置で必然的に私たちの後ろが見えているベルが「はあ!?」と叫んだ。



無理矢理ベル兄の腕の中で首の方向を変えて背後を見ると。








ヘリコプターの操縦士さんと目が合った。









はあああああああ!?


「え、ちょ、何?何でヘリ?」

「空を自由に飛びたかったから」

「いやタケコプター的な理由を聞いてるのではなくてね!?」



そう叫んだ瞬間足下から思いっきり抱き上げられてベル兄が窓から飛び出した。



「いや落ちたら死…うぉ!」



すぐさまつっこみを入れた途端にガクンッと体が揺れて鉄の床に足がつく。

そこはもう私の部屋じゃなくて、鉄で出来たヘリコプターの中だった。



「名無し!」



ベルの叫び声に意識を取り戻しで直ぐ様向こうへ戻ろうと駆け出したけど、やっぱりそれを上回る早さでベル兄の腕がそれを阻んだ。



「てめぇクソ兄貴!」

「にししっ、バイビー♪」

「ベー…ッ」



叫んだ名前が閉じられたヘリの扉でかき消された。
はいおしまい、と扉から引き離されたせいで姿も見えない。

そうしてその場で二三回旋回する揺れを残した後、ヘリはスピードを緩めずその場から飛び去った。






呆然。






今の私を表すなら、きっとそんな感じ。

ガタガタと飛行が定着する前のヘリの揺れでよけいに頭が揺さぶられる。


 



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