「…私が拾ったの、無線機だったんですか」
「そーそー、ベルが邪魔っつって捨てちゃったんだけど、拾っててくれて良かった良かった」
そう言って潰れた木箱と私の手から無線機を回収した。
私は安全な所からこれに向かって泣き真似をしただけだったんだけど、お姉さんはお偉いさんの娘は泣き真似が上手いと相場が決まってる、と演技を誉めてくれた。
そうしてダウンしている男の人の服からまた機械を探し出した。
「あーこれこれ。こいつが欲しかったんだー」
聞くと黒いその機械も無線機みたいで、お姉さんがあちこちいじると色んなおじさん達の声が聞こえてくる。
『ザザッ…リ…パーは北階段…』
『五名死亡…残り…』
「ベルやってんなあ…そろそろ合流しないと。」
じゃあ行こうか、と無線機を持っていない方の手で私の手と繋ぎ、散歩でもするかのような足取りで歩き出した。
無線機から流れる言葉は私には分からないことだらけだったけどお姉さんには分かるみたいで、おじさん達には全く会わずに進んでいけた。
「…お姉さん達は、こういうことがお仕事なんですか」
「そうだよ。まあ今回みたいに誰かを助ける依頼ってのも珍しいんだけどね、暗殺業だし」
普段はこんなドタバタしないんだけど、と笑って言った。
「とりあえずアリーをお宅に届けるまではちゃんと任務を遂行するから心配しなくて良いよ。えーと……」
廊下の先の一つのドアの前に立ったお姉さんが無線機の情報を確認する。
この階は残り三名、援護を、という部分だけ聞き取れた。
「この先からベルが来るだろうから、んー…………やめとくか」
ガチャリとこちら側から鍵をかけた。
「…いいんですか?」
「いいよいいよ、座って待ってよう」
歩き疲れたでしょ、と言われたので同じようにその場に座ると、ドアの向こうから微かに銃の音が聞こえてきた。
何人かが走ってくる足音も。
「畜生!なんであいつには銃が効かねえんだ!」
「知るか!上の階に行けばまだ幹部がいる!走れ!」
声だけで切迫感が伝わる。
ただ私はこの先の展開が分かったので、ホラー映画はこうやって作るのかなと思った。
そしてやっぱり、何人かが勢いよく向こうからドアにぶつかる音がした。
「おい何で開かねえんだ!」
「だから知るかよ!畜生!開きやがれ!!」
「お、おい後ろから来て―――」
「ししししっ♪」
それから一瞬の静けさの後。
「「「ッぎゃあ」」」「はいここまで」
さっさとお姉さんが私の耳を両手で塞いだのでそこから先は聞かずに済んだ。
ちなみにここで座ってる間お姉さんは何をしていたのかと言うと。
「だから味が変わっても夕飯に五日連続カレーはきつ…あ、今の悲鳴?ベルだよベル」
誰かと夕飯のメニューの話をしていた。
いつもこうなのかな、これで良いのかなこの人達…。
ようやく悲鳴が終わったみたいで、お姉さんは私の耳から手を離し、肩に挟んで会話していた電話を切った。
「よし、じゃあアリーにもう一つ手伝ってもらおうかな」
「何?」
「そこのドアの鍵を開けて、数歩下がってくれるだけでいいよ」
そう言って、どこから取り出したのか長く大きいライフルに笑顔で弾を装填する。
…え?
そこのドアって、この向こうに、あのナイフを持った人がいる…よね?
視線でそう訴えても大丈夫、を連呼するだけで、後ろにあった木箱の影に潜んでしまった。
仲間だと言っていたし、私を助けにきたとも言っていたから大丈夫だとは思うけど…。
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