お姉さんに連れられて私は今までいた部屋を出た。
話を聞くとどうやらお姉さんは私が閉じこめられていた部屋へ迎えに行ったのだけど、もうすでに私が逃げ出した後だったみたい。
悪いことをした気がして謝ったら、誘拐されたお偉いさんの娘は行動力があると相場が決まってる、と笑われた。
「あ、えとじゃあ、あなたのお名前は……」
「しっ」
とっさに口を塞ぎ、物陰に連れ込まれた。
するとすぐに先の廊下を曲がって来た怖いおじさん達がドタバタとすぐ横を走り去って行く。
「おい、ガキもいねえぞ!」
「チッ…ヴァリアーの奴らに盗まれたか…!」
「プリンス・ザ・リッパーは!」
「分からねえ!また潜りやがった!」
その通り名久々に聞いたなーとのん気にしているお姉さんと一緒に物陰から顔を出すも、通る人が多くてすぐにまた引っ込める。
「あの、他にお仲間は…」
「いるよーあと一人。今プリンス・ザ・リッパーとか言われてたのがそうなんだけどね」
「…金髪の、ナイフを持った人ですか?」
会ったの?と驚くお姉さんに大きく頷いてみせる。
その時に拾った銀色の機械を見せると、お姉さんも理解したようにそれを受け取る。
「でもすごく血を浴びててっ、私、私、殺されそうで…!」
「うわあ良く逃げられたね、そっかまだ覚醒中か…」
「ほ、本当にお仲間なんですよね。助けてもらえるんですよね」
「大丈夫大丈夫。今ちょっと悪魔か吸血鬼が乗り移ってるからアレだけど、後でちゃんと除霊するから」
じょ、除霊…。
すごく複雑な思いの私とは裏腹に、お姉さんはずっとある一点を物陰から見つめていた。
視線を辿るのを間違えていなければ、そこにはすごくがっしりした体つきに、ベストのような物をたくさん着込んでいる男の人が辺りを歩き回っていた。
「向こうの動きが分かればなあ…うーん……よし、アリシアちゃん」
「アリーでいいです」
「え、何か照れるね。じゃあアリー、ちょっとお手伝いしてほしいな」
「…お手伝い?」
「うん、ちょっと狭いところにいてほしい」
―――――――…
「ぅ…ひっく…」
屋敷に潜伏したと思われるヴァリアーのメンバーを警戒するべく廊下を見回っていた幹部が、小さな泣き声を聞き取った。
元々作戦の生命線とも言える人質まで失踪していたのだから、些細な物音にも敏感になっていた。
「パパぁ…ママぁ…」
「…………」
足音を消して物置代わりに使われている細い廊下の突き当たりを覗くと、中身が空のはずの木箱が積んである。
その中の一つから弱々しい声が漏れていた。
「こんな所にいやがったのか…お嬢ちゃん?駄目だろう部屋を抜け出したら。他の奴らからきっついお仕置きが待ってやがる…」
ぜ、と開いた木箱の中には。
銀色の無線機だけが泣き声を発していた。
「んなっ…!」
「どいしょーい」
「おぼぉ!」
すかさず廊下の影にいた名無しの飛びかかと落としが延髄に決まり、顔ごと木箱にダンクシュートされた男はぴくりとも動かなくなった。
隙間から無線機を探し出し、どうにかまだ壊れきっていないことを確認して。
―――――――…
「アリー、もう良いよー」
そう私に言った。
お姉さんが何ともゆるいかけ声でがっしりした男の人をノックアウトした廊下の、反対側の物陰に隠されていた私。
それを聞くとすぐにお姉さんの元まで駆け寄った。
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