走って走って、誰かここの人に見つかるかも知れないだとかを考える暇なく走って、ようやく鍵の開いている部屋を見つけて飛び込んだ。
すごく暗いけど、冷たいコンクリートの床と野菜の匂いから何か食べ物を保管する場所なんだと思う。
必死でそれらの詰まったずだ袋の隙間に体を隠す。
ぶるぶる震えたままの体が止まらない。
「何あれ…何あれ…っ」
怖かった。
もう死んでしまうと思った。
あのナイフは絶対に私へ刺さるんだと思った。
何が起きてるんだろう、ここの怖いおじさん達がパパのすることに反対している人達だっていうのは知ってる。
じゃああのナイフを持った人は?
何でこんな所にいるの?
「あ…」
がちがちに固まっている手の中に、廊下で見つけた銀色の何かを握っていたことをようやく知った。
色んなことに必死で持って来ちゃったんだ。
もうやだ、怖い。
怖いよ。
「パパ、マ――」
その時、廊下から足音が聞こえた。
「!」
コツ、コツとゆっくり、色んな部屋を探すように近づいてくる。
思わず体を小さく小さく抱えたけど、これ以上隠れられはしなかった。
やだ、嫌だ…!
コツ
足音はこの部屋の前で止まった。
胸の音がうるさい。
辺りはどこも静かなのに、体の中のどきんどきんで頭がいっぱいになる。
やめて、来ないで…!!
ガチャリ
「……!」
「…あー、やあっと見つけた」
期待は裏切られてドアは開けられたけど、予想に反して声は女の人の物だった。
思わず顔を上げると、明かりのついた廊下から差し込む光でその人の顔が見える。
少し笑っていて、どちらかというとお姉さんで、結構綺麗で、そして。
あのナイフの人と同じ黒い服を着ていた。
「やだ!やめて!来ないで…!!」
「わっ、いやいや違うって」
「いやいやいやいや!!殺さないで!お願い!!」
「いや殺したら元も子も。あー何かこういう時の子ども用スキル無かったかな…」
よりいっそう小さくなった私へ、お姉さんは思いついたようにその辺りのずだ袋からニンジンを持って、片手でナイフを持った。
見て見て、と屈んで目の前に来る。
「じゃあ今からニンジンの皮を一瞬で剥いて見せまーす」
「…え?」
「……………えいやっ!」
サンッとナイフを一振りしたかと思うと、空中に投げられたニンジンから螺旋のように薄く皮が剥がれた。
しゅるるるとした形に繋がって剥かれた皮と綺麗な裸のニンジンがお姉さんの手に着地する。
一瞬の出来事だった。
「………」
「あれ、本当に落ち着いちゃった…ボスの手伝いやっておくもんだな」
行き当たりばったりでやったらしいお姉さんの方が驚いていて、それが何だか逆に気が抜けた。
アリシアちゃんだよね?と私の名前を呼んで。
「お父さん達の依頼で助けに来たんだけど、怪我とかはしてない?」
こくこく頷くと頭を撫でて立ち上がらせてくれた。
…助けに?
……本当に?
「そりゃ何より。ひゃあ何か聞きたいことがあっはら、何でも聞いてね」
「…あの」
「ふ?」
「……何でニンジン食べてるんですか?」
「あ、もったいないはら」
…大丈夫かなあ…。
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