「…やっちゃった…」
暗くて狭くて、埃っぽい通風口の中。
私の心の中にあるのは一抹の後悔だけ。
12歳の誕生日にここの人達に誘拐されて、今日ようやくあの部屋から抜け出したのは良いけれど。
これから、どうすれば。
「…うんしょ、うんしょ」
とにかく前へ前へと進もうと手足を動かす。
どうしよう、あの部屋に残ってた方が良かったのかな。
でもここの怖いおじさん達はすごくひどい言葉で私を扱うし、パパとママにも一度電話させてくれたきりだったし、もうこれ以上待っているなんて出来なかった。
「………あ、」
ようやく先に光が見えた。
多分出口だ。
この先がどこに繋がっているのから知らないけど、もうここの狭さにはうんざりしてたから急いでそこへ向かった。
だけど。
「ぎ……!」
「!」
変な声を出しながら、通風口の出口に男の人が倒れ込んだ。
口から血を流していて、あ、死んでる、不思議なくらい冷静にそれが分かった。
私はどこかの廊下の床近くに出たみたい。
続けてどさどさっと穀物の詰まった袋が落ちたような音がして、そうっと通風口から顔を出すと、綺麗な金髪の人が立っていた。
周りにはたくさんの怖いおじさん達が倒れていて、皆が皆血だらけで、そして。
私からは、その人が持ってる真っ赤に染まったナイフが何よりも近くに見えた。
「……!」
ひきつりそうな喉をぎりぎりで抑える。
怖い。
あの人がやったんだ、だってナイフを持っているもの。
綺麗な金髪も、真っ赤な物がたくさんついてる、し。
じっと息を我慢していると、何かかちゃりと音がして、銀色の機械みたいな物が私の目の前に転がって来た。
「雑魚ばっかじゃんつっまんねぇえ…」
その声がこの場所から遠ざかっていったから、そろそろと顔を出して確認する。
私が潜っているこことは反対の方へ行ってくれるみたい。
安心して、何かの役に立つかも知れないと目の前に転がって来た機械へ手を伸ばした時。
ゴトリ
廊下に倒れているおじさんの手から、銃が落ちた。
指先か何かに引っかかっていたもの、らしくて。
すごく、重たい音を、立てた。
「あ゙?」
「!」
当然あの人は振り向く。
そして私を見つけるとにやって笑った、絶対。
「へぇえ、ガキとかもいんじゃん。お前こいつらよりは叫ぶ?ねぇ、ねぇ」
フラフラ、フラフラ、足取りどころか頭まで揺れているのに全然気にしないで、笑いながらナイフを構える。
着ている黒い服がさりさりと音を出して、必死に首を横に振る私へ差し迫って来た。
「んなことねーっしょ?いっつもならガキなんて面倒だけど、ししししっ、今めちゃめちゃ何でもいーし♪」
「ひ…!」
ばいびー、と笑って、ナイフを何本も高く掲げた時。
「いたぞ!殺せ!」
向こうの突き当たりから、ここのおじさん達が何人も飛び込んで来た。
ナイフを持った人はくるりと向きを変えて、今私へ投げようとしていたナイフをそちらへ投げつける。
叫び声が起きる。
「ししししっ♪」
「っ!」
この隙に私は必死で体を動かして走り出した。
後ろでたくさんの悲鳴と銃の音が聞こえたけど、怖さが私を振り向かせなかった。
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