「…やっちゃったなー…」
丑三つ時、割と豪華な屋敷にて、呟いた私の声は潜り込んだダクトの暗闇に吸い込まれていった。
久々のペアでの任務で多少配慮が欠けたかも知れないけど、不測の事態というのはどんな任務にも付き物なわけで。
いやでもまさか。
「…血を見たベルを取り逃がすとは…」
とりあえず屋敷の人には全力で逃げてほしいと思った。
*暗殺の国のアリス*
非常に非常に珍しいことに今回は救出も織り交ぜられた任務。
どこぞの反政府一味に誘拐された立派な家の御息女を救出兼、一味抹殺といった内容だった。
それで私が救出係、ベルが抹殺係で臨んだのだけど。
『一応役割的には問題ないんじゃない?ベルがターゲットの御息女を殺してしまえば元も子もないだろうけれど』
「そこなんだよねえ…」
息を吐いて狭苦しいダクトから薄暗い廊下へ脱出する。
ベルがいると思われる位置と正反対の廊下を行くよう努めているけど、自分の血を見た「あの」ベルが取る行動なんて予測出来るはずがないからほとんど運任せだ。
頭に叩き込んだ屋敷の見取り図をフル稼働させて御息女が監禁されている部屋を目指す。
『…とりあえず、粘写したよ。ベルは今一階南側の廊下にいる』
「うわもうそこまで行ったか。ありがとマーモン」
『何ならずっとベルがいる所をナビゲーションしてあげようか』
「金額跳ね上がるから良い…よっ」
『今の声何?』
「回し蹴り」
『ああ、御息女の監禁場所その辺りだったね。じゃあ精々頑張りなよ』
へーへー、と返事をして携帯をしまった。
結局マーモン頼みだなあ、ベルと互いに付けている小型無線機はさっきからノイズしか拾わないし。
ボスといいベルといい何で通信手段を活用してくれないんだ。
流行ってるのか、俺様キャラの中でそれが最先端の行動なのか。
「全く何でだろう」
「いや俺に聞かれても…」
「ですよねー、うらぁ!」
「ひでぶっ!」
部屋の前で見張りをしていた数人目を同じく回し蹴りで沈めた。
ルッスーリア姉御じゃないから絶命まではさすがに出来ないけど、それなりに効果はあったりする。
見張りの人も普通に暗殺者が廊下を歩いて来るとは予想外だったろう。
『…ザザッ…ガー……んだ、これ…』
「あ!ベル、もしもーし!」
運良くノイズの中からベルの声がした。
通信する気になったのかな?
『…これ邪魔くせ』
『バキバキィッ』
だ よ ね 。
まあ分かってましたけどね、こんな口元にピンマイクあったら速攻で壊されるだろうなとは予想出来てましたけどね。
一応まだ通信は出来るのかひどいノイズまみれだけど、ベルがこれを使う時は来ないだろうな…。
やれやれと仕方なく交信を諦めて、追っ手が来る前に監禁部屋へ入った。
が。
「…今日は皆思い思いに動くのが良いとか星占いで言ってたのかな…」
存外シンプルなその部屋には椅子や机が何とか奇跡的なバランスで積み上げられた足場と。
その先にある子ども一人くらいなら通れるっぽい通風口が、御息女様が何をしたのかをしっかりばっちり教えていてくれた。
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