「間違っても引っかかれないでよ…」
「だーいじょぶだって。こいつら獲物にしか興味ねーみたいだし」
まあ確かに猫缶を奪い合う相手くらいしか牙は剥かないみたいだし、そこまで気にせず見ていたんだけど。
「……キュイン」
「ん?どったのモスカ」
「………ウイィィ」
遠慮がちに肩を叩いたモスカが、どこかすまなそうに持っていたレジ袋をこちらへ見せた。
…あれ?
なんでこんなに茶色い液体がなみなみと入ってんの?
「……あ!これさばみしょ味アイ……くっそ言えなかった!鯖味噌アイス!?」
「キュイン」
「え、もう溶けたワケ?」
「…キュイン」
そう発して自分の体を指差した。
見るとなんかモスカの体から湯気が…ああ、暑すぎてずいぶん前から熱されてたもんね。
レジ袋に体が触れちゃってたんだね。
「うわごめんモスカ、モスカのせいでないよ」
「ししっ、どうせネタ用だからいんじゃね?凍らせたら元に戻るっしょ」
キュイン……とガスマスクをうつむかせるモスカの肩を叩きつつ、とは熱すぎて出来なかったけど、そんな気持ちで慰めた。
他のアイスもこうならない内に帰ろうと言うきっかけが出来たので、ベルの方へ振り向いた時。
なぜだか猫が、モスカの方へ動き始めていた。
さっきまで無言だったはずの猫のいくつかも、どこか意味ありげに鳴き始めている。
「キュイン…」
「え…何?どうしたの?」
「名無し!モスカの袋!」
ベルが叫んだ時にはすでに一匹の三毛猫が飛び出していた。
真意に気づいてそちらへ手を伸ばすも、向こうが爪を剥き出す方がわずかに早く。
プシュアッ
「「「!」」」
切り裂かれた袋から勢い良く中身の液体が吹き出し、そのほとんどがモスカに、二割ほどが私達の服にもろにかかった。
うわすごい、めちゃめちゃ懐かしい家庭の匂いがする。
とかそんな間の抜けた考えを打ち砕くかのように。
にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー
猫達の大合唱が始まっていた。
全員が戦闘態勢の目をしていた。
かれらの中で私達の姿は確実に、鯖。
「……ベ、ル」
「…うん」
「……は、やくさ…」
「…うん」
にゃああああああ!「…逃げよおおお!!」
「モスカ!背中!」
「キュイン!」
ベルがとっさにレジ袋をひっつかみ、モスカが力業で私とベルを背中に放り投げた。
次の瞬間その足から凄い振動と共に炎が吹き出してあっという間にその場を飛び立った。
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