ボスがそこまで言うなら行くしかないのか。
モテないボスって何だかんだであんま見たくないし。
しかしあまりに勇気がいることなので、ボスに交渉して手を握ったまま二歩後ろに立っててもらうことにした。
考えちゃいけない、
私達実はヴァリアーなのにとか考えちゃいけない。「あ、あのーボヴィさーん…」
恐る恐るすすり泣く女性の横に立って声をかけてみる。
その瞬間ぴたりと泣くのをやめたから、多分ボヴィさんで合ってるんだろうけど…。
ゆっくり上げてくれた顔がゾンビそのもの。
うーんキッツイ、これはキッツイ。
落ちつけ私、目と目を合わせず口元だけを見ろ、笑顔を絶やすな、
今にも走り出しそうなボスの手を全力で掴み続けろ。「あの、ここを通りたいんでちょっと避けてくれたらなー、なーんて…」
「ばあ!」
「ひい!?」
提案、という意味で人差し指と親指を立てたポーズを見せた途端、恐ろしい悲鳴とともに怯えだした。
何だ何だ、私が何をした。
「ぢゅうじゃ…」
「へ?…ああいや、これは別に注射とかそういう意味のポーズじゃな…」
「ぎゃああああ!」
「ちょおお!?」
一歩歩み寄った瞬間ゾンビとは思えない速さで『出口』の中へ駆け込んでいった。
「ちょっとお!誤解誤解!待っ…」
慌ててボスと『出口』の扉を開け放って中に飛び込む。
けれどすぐに足が止まった。
足を踏み入れただけで分かる室内の温度の低さ。
初めて稼働している蛍光灯。
部屋一面を取り囲むようにこちらへ足を向けて寝ている大勢の人達。
「え…ここって出口じゃ…」
思わず口にした後、ボスが物凄い力で私の腕を引いた。
何事かと首を向けると、今までで一番の顔色の悪さで部屋の向かい壁の上部を指さすボス。
指の先に文字が書かれていた。
霊 安 室 と 。
出口って、出口って……
この世の『出口』か!「おい、戻―」
ガゴンッと背後で入口の時と同様に扉が独りでに閉ざされた。
何かが千切れる音と共に室内の蛍光灯の全ても停止する。
「ぎぃ…ぎぃ…」
「ああ…ぁ…」
一寸の光もない暗闇の中、四方八方から聞こえてくるベッドが軋み、何かがずり落ちる音。
この音は私もボスもさっき嫌というほど聞いたもので、つまりは、その、うん。
アウトということですね?
「「「ばああああああ!」」」
「「っぎゃああああああ!!」ブチン、と元から真っ暗な視界が真っ白に切り替わった。
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