―― 1階ロビーソファ裏
「はあ…はあ…初っ端からレベル高すぎる…」
「…あの女は行ったか」
「『受付を空にしちゃいけない』って言って戻ってったよ」
見上げた仕事心だ。
ただ肉体が死んだのと同時にその仕事心も消えてくれてりゃ何の不満もなかったが。
「これからどうするボス」
「…とりあえず、あいつだ」
隠れていたソファの背もたれから揃って首を出すと、ななめ前に診察室と思われる部屋の入口が見える。
その部屋に扉はなく。
「うあ…ああ…」
室内を徘徊しまくってる医者ゾンビが見える。しかもこの先へ進むにはあの診察室の前を通って奥へ行かなきゃなんねえ、いい加減にしろ。
「全然進めねえじゃねえか。」
「いやあこんなに慎重に進んでるのは多分私たちだけな気もするけど…」
聞けば一般人は怖さに身を任せて一気に駆け抜けて行くもんらしい、じゃあ俺たちがこんなに隙を窺いながら進んでんのは暗殺者の性か。
畜生め。
「あのゾンビ医者はうろうろしてるから、違う方向見てる隙にさっさと通っちゃおう」
「よし、次はお前が前を行け、俺が後ろを見る」
「強調するとこそこなんねボス」
足音を立てずに医務室入口まで移動する。
会話はゾンビに聞かれる、と名無しが会話禁止の旨を口をチャックするジェスチャーで伝えてきた。
いやそこは指を口に当てるだけでいいだろ、俺何歳だ。
医者ゾンビが後ろを向いた瞬間を見計らい、静かに歩き出した。
「グ、グゲ…ボヴィざ、ん…」
「「……」」
「まだじがんどおりに…ぎでぐでない…」
ああ見える、ばっちり見えやがる。
正面の名無しの背中から
「つっこみたい」っつうオーラが浮き出て見えやがる。大体さっきのナースもこの医者も皆ボヴィって奴がちゃんと診察に来てりゃ襲われなかったじゃねえか。
腹立ってきた、名前が似たレヴィにも腹立ってきた。
「ボヴィざん…なおだなぐでも、じりまぜんよおぉ…」
医者はまだ俺たちに背を向けている。
あと数歩も歩けばこのエリアは何事もなくクリアできるだろう。
「まっだぐ…レディだんだがらじがんはまもっでぐでないど…」
「……女だったのかよ」
あ。
「……ボヴィざああああああん!」
「ボオオオオオス!」
前を走る名無しと後ろから走ってくる双方に叫ばれた。
「いや仕方ねえ!あれは仕方ねえ!」
「私めっちゃ我慢してたのに!しかも後ちょっとのとこ…医者まで足はええええ!」
「ボヴィざあああん!」
「「うおおおお!」」
とりあえず前方確認も行わずに走りまくる。
途中でわき目に倒れてる患者だの何だのが見えたが目の錯覚だうんそうに違いない。
全速力で走る俺たちの前に見えてきたのは『右』『左』の矢印が書かれたプレート。
廊下が分かれていやがるのか…どことどこだ?
右:入院棟 左:入院棟
「「同じじゃねえか!」」
声を揃えて立ち止まったあたりで、背後から突進してきている医者の存在を思い出す。
「てめぇは左に行け、俺は右に行く」
「了解!」
こういった状況は任務で手慣れているだけあって、すぐに俺達は行動を別にした。
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