到着した場所には禍々しい空気を放つ巨大な廃病院が建っていた。
薄汚れて妙な染みだらけの灰色の壁には蔦が絡みつき、ここからでも割れている窓をいくつか確認できる。
ようやく自分の足で地面に立った名無しはさっきから俺と目を合わせようとしねえ。
「…ゴーストハウスなのに何で病院なんだ」
「…なんでも日本で一番怖いお化け屋敷を模倣したらこうなったってことで有名な遊園地なんだよ、ここ…」
マジでか。
日本のホラーってあれだろ、気味の悪いにも程があるあれ。
「そう、ボスが途中で投げ出したサダコとかカヤコとか出るあれ」
「黙れ。そして俺の思考を読むんじゃねえ」
「ボス全部口に出てるよ」
「マジか」
とにかくそれを聞いただけで四割はこのアトラクションに対する嫌悪感が増した。
別にビビってるとかじゃねえ、断じてねえ。
「はっ、任務の敵アジトに比べりゃままごとみてえなもんじゃねえか」
「でも中に超怖い人たちウヨウヨいるよ」
「んなもん平民向けだろうが。死の淵をかけてやってる俺らと比べ物にもならねえ」
「ボス、マフィアの心情を切々と語っているように見せながらお化け屋敷への拒絶の言葉が透けて見えてる」
「ついに俺も透かし能力を手に入れたか」
「ボスそれ透視能力、透かし能力ってボスの影めっちゃ薄くなるじゃん」
「あ、いらっしゃいませー」
あまりにも入口に突っ立っていた俺らへ廃病院の中から店員らしき奴が出てきやがった。
死 体 の 格 好 で
「てめ」
「ボスストップ!」
とっさに二丁拳銃を取りだしそうになった俺の腕を危うく背後から名無しが押しとどめた。
いやでもこれは仕方ねえ、このリアルさは仕方ねえ。
「あら?入場されます?」
声からして女か、いやこんな外見になっちまえば別にどっちでもいいが。
「え、えええっとどうすんのボス」
「…男に二言はねえ」
「でも三言くらいあってもいいと思…」
「2名様入りまーす!」
「「うおおぉい!」」
畜生、ゾンビになりやがったくせに殊勝な店員だ、墓に送り戻してやろうか。
無言で名無しを見下ろすと演技ではない冷や汗をかいたままで頷いた。
こいつは知っている、今更訂正したところで俺達にどんな烙印が押されるかを。
てか何でてめぇ任務の時の目つきになってやがんだ、そんなにやばいのかここは。
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