「でもボスヘリは乗ってるじゃん」
「一番早え移動なんだから仕方ねえだろ。俺が何のためにヘリの窓に背を向けて座ってると思ってやがる」
「そんなためだなんて知りたくなかった…」
観覧車は外の景色を楽しむアトラクションだとかで、それが駄目ならとにかく会話しかない、というのが名無しの説明だった。
「…何を話すもんなんだ」
「うーん、カップルだったら馴れ初めとか云々あるんだけどこういう場合って何を話せば…」
「んな難しくねえだろ」
「いやあー難しい、上司と観覧車乗った時の会話術ってかなり難しい」
しばらく頭を抱えていたが、先ほどの会話を思い出している時に何か思いついたらしい。
「あ、馴れ初めじゃなくて思い出とか話せばいいんだ。ボス誰かとの昔の話してよ」
「昔の話だ?」
「そうそう、今のヴァリアーって私が一番後に入ったから皆の昔のことはボスの方が知ってるでしょ」
そういやそうだったな、まあこいつは本当に一番後に入ったのか疑わしいくらい馴染んじゃいるが。
ベルだのカス鮫だのの過去なんざホイホイ聞いたりも出来ねえんだろう。
「…仕方ねえな、俺と誰の過去だ」
「うーんとじゃあ……」
時間的に一人分の話が精いっぱいだと悟ったのか、慎重に選んでいるらしい。
まああのジジイとのこと以外なら大抵話せは…。
「あ!ヘリの操縦士さん!」
何だその変化球は。ヘリの操縦士って名前すら出てきてねえじゃねえか、さすがにカス鮫共が哀れだ。
いつだ?いつからお前はそんなに渋いチョイスを出来るようになった?
「いやでもヘリの操縦士さんすごいよー。前に大コスプレ大会になってた私達を一つのつっこみも入れずに送ってくれたし。ベル達の城で一人でヘリ守ってくれたし」
ああ、あれは評価してやる。
しかし名無しのヘリの操縦士に負けた俺の幹部たちってどうなんだろうな。
「…地上につくまでだぞ」
「よっしゃ」
そうして俺は滔々と語りだした、俺とヘリの操縦士との昔話を。
昔、名をはせた銃器使いの暗殺者。
しかし仲間をかばい四肢へ負った深刻な負傷。
残る後遺症、持てなくなった銃器。
耐えきれずに去っていく仲間。
戦場にいけないジレンマ。
そして出会う操縦士という道。
あらゆるマフィアを転々とし、最後にたどりついたヴァリアー。
予期せぬ俺からの勧誘。
骨を埋める覚悟という誓い。
そして…今に至る。
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