「どうせ眠れないなら遊びに行こうよボス」
「あ?」
別にそれは構わねえがこんな深夜に開いてる場所なんざ俺の想像する限りいかがわしい娯楽場だけだろ。
そう言うと名無しは俺にシャチを預けてベッドのすぐ横に置かれたライトスタンドの引き出しを漁りだした。
「この間ルッスーリアと街に買い物に行ったらもらったんだー」
見せたのは二枚のチケット。
「…遊園地?」
「うん、それ近くにある遊園地のチケット。今はイベントだったか何だかで一日中やってるはずだよ。ボスは好きそうじゃないけどねー」
二枚の紙きれを受け取って見てみると、確かに深夜から朝方までやっているらしい。
いや、それよりもまず根本的に問題なのは。
「……」
「…ボス?やっぱ遊園地嫌い?」
「…いや、あのな」
「うん」
「……遊園地って何だ?」
その時一瞬名無しが固まったのを俺は見逃さなかった。
いや本気で知らねえ。
字面に「遊ぶ」が入ってる辺りからそういう場所だというのは分かるが。
「んな時間帯に開いてんならカジノか何かか」
「ちち違う違う!もっと健全で子どもから大人まで遊べるテーマパークっていうか、ほら前に一緒にテレビで見たジェットコースターとかがあるところ!」
…ああ、あれか。
あの空中に浮いた線路みてえな所を乗り物が走る奴か。
ああいうもんがあるならそれは確かにテーマパークだ。
子どもの頃に行かなかったのかと聞かれたが、教えられてことも連れて行かれたことも無いと答えると名無しが何だか泣きそうな顔になった。
「…ボス今から行こう、遊園地行こう!失った子供時代を取り戻そう!」
「(俺の子供時代失われたのか)…なら行くか」
「あ、ちょっと待って。片手にシャチのぬいぐるみ持って片手に遊園地のチケット持ってるボスかなりファンシーだから写メってお」
今度は容赦なくぶっ叩いた。
シャチは折れ曲がった。
「来たぞー!」
チケットに書いてあった場所へ着陸したヘリから降りるなり名無しが叫んだ。
つくづく血の気の余っている奴だ。
訪れた遊園地とかいう場所は俺の想像とは結構違う方向性を持っている。
豪奢なゲートをくぐると目が痛えほどの電飾の存在に一瞬怯んだ、俺としたことが。
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