四大貴族の中の一つに名を連ねる檻神一族。
どこよりも猟奇的に戦いを好み戦いに生きる。
暗記ができるほどに幼い頃から言い聞かされていた自分の一族の由来。
だから後継ぎであるお前もそうであれと、長男の俺に厳しく教える父上の気持ちもよく分かる。
だが。

生まれもった物だけは、仕方がない。
















「次の当主はやはり殺那様か」

「力量はあるそうだがなあ…まだ斬魄刀の名すら聞けていないだろう」

「あの気性じゃうちの当主は務まらねぇよ」



父上の弟子達がそういう意見を持つことも俺は納得していた。
代々この檻神一族は好戦的で、血を血で洗い乾かす隙もなく血を流させるほどの存在が当主になってきた。
この俺とは正反対な者達が。

いや、彼らが正反対なのではない、俺がおかしいのだ。
この血筋の中になぜ俺のような戦いを好まない者が生まれたのか、それが一生の疑問だ。
代々当主に受け継がれるはずの斬魄刀も俺にだけは全く反応しない。

当然名前すら聞けていなかった。





「…父上、俺には檻神一族の当主は相応しくありません」

「己で言っていては何もならないだろう。斬魄刀の名前は聞けていないとしても、お前は今の代で誰よりも優秀だ。お前以外に檻神一族を引いていけるものはいない」



いつもそう請願する俺へ言う父上の言葉はありがたく、重たかった。
名家である我が一族を率いていかなければならない責任。
優秀とは言われても未だ斬魄刀の名すら聞けていない現実と焦り。

笑ってしまうような願かけで、名が聞けるまでは髪を切らないとふざけながらに伸ばし続けたそれは、もう背中の辺りまで届いていた。



俺は、この家にいて良いのだろうか。



父上が俺を励まし、鼓舞する度にその思いは強くなっていく。
このひねくれた心さえ受け入れられない。
それでもこれ以上追求しても仕方ないため、今日もここで話を切り上げた。





「兄貴」



父上の部屋から出たところで家族の一人に呼び止められた。



「…何だ、劫(こう)か」

「何だとはひでぇなあ…兄貴、親父に何か言われたのか?気に入らなかったらブン殴っちゃえよ」

「父上にそんなことが出来るか」



にへらと笑いながら兄貴は固え、なんて言ってくる劫の方がここの当主に似合っていることくらい誰でも知っていると言うのに。
俺とは違う、正反対なくらいに戦いが好きで、心身ともに身軽なこの弟なら。

だが仕方が無い、劫に当主を務めさせるには明らかに実力不足だ。
俺しかいない。
鼻歌を歌いながら俺の先を歩いていく劫の短い髪に、思わず立ち止まって空を仰いだ。





俺は、ここにいて、良いのだろうか?






それでもいつまでも斬魄刀の名前は聞けず。
髪を切ることもできずにいた。
そんなある日のことだった。



「殺那、お前一度瀞霊廷に行ってみる気はないか?」

「…瀞霊廷ですか?」



父上に呼び出され、そんなことを告げられた。
瀞霊廷は同じ四大貴族である朽木家の当主が隊長をやっていると言うこともあって、詳しい方だった。



「同じ弟子達の相手ばかりでは成長も何も無いだろう。一度隊にでも入って色々な者を相手にしたらどうだ」



それは父上にとって、恐らく俺を気遣っての言葉だったんだろうと思う。
だがそれは俺にとって大きな苦痛でしかなかった。

俺は檻神一族に生まれたと言う誇りを持っている。
それなのにどこぞの奴とも知れない隊長の下につけと言うのか。











そこまで俺は認められていなかったのか。



 



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