「……もう一度言ってくれ、総隊長」



各隊長と副隊長が参列した中で、日番谷が声をあげた。
他の隊長達も無言ながらそれに同意しているようだ。



「繰り返したところで変わらぬ。明日より一ヶ月、過去に存在した零番隊を復活させる」



隊長達からすればあまりに突然の発表。
だが零番隊という都市伝説にも近い隊の話を聞いたことのない隊長はいない。
その存在が本当であれ嘘であれ、インパクトの強い噂話だからだ。

そのため賛成するにも反対するにも情報が少なく、加えて四十六室の決定という点も加えると、易々と反対意見は出なかった。



「山じい、新しい隊を期間限定で置くのは良いけどさ。今から隊員を集めるの?」

「いや、零番隊全十席は過去にいたものを使う。今隠密機動隊を使って流魂街を探させておるが、瀞霊廷に隊員として紛れ込んでおる者が若数名。今日中に移隊届けを持って来るだろう」



その時は各隊長の判断に任せよう、とそこで言葉を区切った。



「各隊長達は自隊の隊員に零番隊の存在を教えておくのじゃ。以上」



これは葵が零番隊の復活を決めた次の日のことだった。






















――――――……


「ああああ落ち着かない…」

「なしてお前がソワソワしとんねん」



朝に開かれた集会後、集会場からの帰り道に二人の姿が見られた。



「だって零番隊が動き出すのよ?葵が零番隊に何らかの関係があるんじゃないかってのは噂になってるけど…」

「あんだけ隊長さん達の前でキレたらそうやろねぇ」

「そん中の東仙隊長がそう簡単に受け入れると思う?」



ほぼ完全に葵へ良い目を持っていない東仙に移隊届けを認めさせるのは至難だ。
葵はそんなこと気にもしないのかも知れないが。



「大丈夫やろ、あの葵のことやし」

「そうよね…にしてもあー気になる!落ち着かないぃ!」



キーッとジタバタする様子を見て、あの騒がしい某零番隊第三席を重ねた。



「移隊届け出すだけなんやからすぐ終わるて。普通に仕事しとれや」

「……そうするわ」










ところが現在、昼の十二時。
朝の緊急集会が開かれてから四時間が経過した。
零番隊の隊員や隊長である葵が何らかの動きを見せることはなかった。
もちろん乱菊は気が気でない。



「……松本、さっきから何九番隊を盗み聞きしてんだ」

「へ!?嫌ですね隊長!そんなことしてませんよ!」

「壁に耳押し付けて必死の形相してる奴が言えることじゃねえな」

「や、これはちょっと壁から耳が離れなくなっちゃいましてー」



ちょっとした茶番をしていたとき、十番隊の入り口が開いた。
そこにいたのは、顔色を変えた東仙。



「日番谷君はいるか…!」

「どうした、東仙」



見るからに落ち着きがなく、焦っている。
部屋の一番奥にある日番谷の机まで駆け寄ってきた。



「私もまさかとは思っていたんだが…こんなことがあってはならない…!」

「おいどうしたんだ、お前らしくない。落ち着いて話せ」

「…か、彼女が…」






「こちらにいらしたんですか」






りん、と鈴がなるような声に、ほぼ全員が一斉に入り口を見た。
そこにいたのは、何度見ても見慣れることのない、触れれば消えそうな儚さを残して立っている葵。
一瞬にしてその場が静まる。


 



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