目の前で眠る美しい少女の、手を握って泣いた。
こぼれた涙は拭わなかった。
傷跡が消えた白い肌に詫びて、傷跡の消えない強い心に縋った。

ああ神様、私に何ができるでしょうか。
私に何が償えるでしょうか。
この強く弱い子を裏切った罰に、私は何をすれば許されるでしょうか。











――――――…


葵達がいなくなった後、良々は何人もの隊長の質問にパニックに陥り、しどろもどろに何かを言いながらその場を飛び出した。
流魂街へ逃げ込んだため、死神が追い付いた頃には千匹皮の能力で一般人になり済まし、見つけることができなかった。




「…そうだったんですか」

「ええ…多分見付からないわね。あの能力使われちゃ」



葵が気絶していた際に聞いた情報を報告した乱菊。



「市丸隊長は?」

「何か用があるからって卯ノ花隊長を呼び出してったわ」

「卯ノ花……」



何か気にかかるのか、視線を自分の右腕におとした。
袖をめくると、ここ数日の間に受けた暴力の痕が消えていた。



「……夢を見たんです」

「夢?」

「気絶している時、卯ノ花の夢を見たんです」



何だか懐かしげに、まだほんの少し温もりの残る右腕を撫でた。



「卯ノ花隊長が、来たような気がした?」

「ええ、夢ですけれどね」

「……そうね」



気絶している間、ずっと卯ノ花が葵の手を握って泣いていたことは、言わなかった。
本人からも言うなと言われている。




(ごめんなさい、葵…ごめんなさい……)




乱菊には葵と卯ノ花の間に何があったのかは分からない。
葵が卯ノ花を信じていたことと、卯ノ花が葵を信じなかったことは感じとれた。
それでも、子を傷付けてしまった親のような卯の花を見て、怒りも憤りもどこかへ消えてしまった。

それに、今なら乱菊にも分かる。
葵は責めも許しもしない。
卯ノ花を責めるのも許すのも、卯ノ花の仕事だ。

そんな時、不意に治療室の扉が叩かれた。



「はい?」



乱菊の返事に、静かにそれが開かれると、そこにいたのは殺那。



「葵様、お体は大丈夫ですか」

「ええ、心配をかけましたね」



殺那のひどく思いつめたような表情が、それで幾分か和らぐ。
いえ、と首を横に振ってから布団に身を起こした葵の前で膝をついた。



「…総隊長がお呼びです。体に差し支えがなければ直ぐにでも来るようにと」

「お咎め、ですかね……」



チラと自分の枕の横に置いてある砕けた霊圧制御装置を見やった。
鍵の形をしていたソレは復元不可能ではないにしろ、元の形を想像するのは難しい。



「それなかったら大変だもんね、あんた…」

「そうなんですよね…」


本当はこの霊圧制御装置が壊れた時点でこの地域一帯が危ないのだけれど。



「四十六室が頑張ってくれているみたいですね。それなら早く行きましょうか」



そう淡々と、またいつもの無表情で彼女は告げるのだった。






















――――――……


「…ふむ、揃ったか」



久しぶりに呼び出された一番隊隊長室兼総隊長室。
呼び出された顔ぶれは変わらずにギン、葵、乱菊。
加えて殺那。



「とうとうやってくれたのお。」

「申し訳ありません」



隠す気もなく、さらっと答える葵。
そんな性格を知っているためかそれに対しては何も言わない元柳斎。






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