初めて市丸隊長に会ったのは、三番隊に配属されて一週間経ったある日。
あの人の貼りつけた様な笑顔を見て、似ていると思った。



「はじめまして、風音良々です」

「お、結構可愛いじゃん」

「ほんとほんと、ねえ今度どっか行こうよ」

「何か分からないことがあったら教えてあげるからさ」



誰も彼もがアタシに寄ってくる。
流魂街とはまったく違い甲斐性のある男達が。
この表面だけの化けの皮に誘われて。



「…あ、少し失礼します」

「ん?どっか行くの?」

「ちょっとね」



ちょくちょくそう言って、誰もいない更衣室か厠で化粧を直す。
アタシが化粧と言う物を知ったのは死神の試験に合格する少し前だ。
今までどれだけ鏡の前で微笑んでも少しも好きになれなかった自分の顔が、いつでも顔を映すものを見ていたくなるほどにアタシを変えた。
コレを身に付けている限り怖いものなんてなかった。

ただ一つ。
虚しくは、あったけど。



元の顔色が分からないくらいに塗り尽くしているのなんて私くらい。
これだけ厚く化粧をして仮面のように被りっぱなしで、それなら一生千匹皮で化けていた方が良いんじゃないかって。
だから誰にも本当のアタシを知ってもらうなんて出来ないんだろうと思ってた。
アタシみたいな生物はいないんだろうと思ってた。

そんな時に、市丸隊長と出会った。
隊長のくせに一週間も新人隊員に顔を見せなかったその人は、貼りつけた様な笑顔を持っている人だった。
様な、じゃない。



実際に貼りつけていた。



ニコニコと言う言葉は可愛すぎて、ニンマリと言うまでにはいかない不思議な笑顔を。
そうか、この手もあったんだ。
化粧で隠すんじゃなくて、同じ表情にしかしないで自分の本当の顔を隠すと言う手が。

偽物の笑顔で、核心に触れない程度のことだけ喋って、決して本音を言わなかった市丸隊長。
その顔を崩すことも人との境界線を越えることもなかった市丸隊長。


似ていると思った。
どうしようもなく、アタシと同じような人だと思った。
アタシと重ねてしまったから、好きになった。
仲間を見付けた。
そう思うと本当に嬉しくて、言い寄る男達なんて気にもならなかった。

だから吉良副隊長にも言い寄って七席に入れてもらったし、誰の目にも可愛く見えるように振る舞った。
それでもアタシは見てしまったの。



廊下で市丸隊長を見かけた時、声をかけようと近寄った時。






(あ、市丸隊ー…)

(そんなら乱菊に言っておいてや)



市丸隊長は誰かと話をしていたから、思わず近くの柱の陰に隠れた。
すぐに女の声が返ってきて。



(はい、でも乱菊さん怒りますよ?)

(せやから葵に頼んどるんやて……)



…『葵』?だれ?
柱からじゃ少し困ったようにしている市丸隊長しか見えない。



(いやいや、こんなん僕から言ったら真面目に殺されるわ)

(そうですね)

(ちょっとは否定してや…!)







………え?




 



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