最初に口火を切ったのは恋次だった。
「美花!どうした!?」
「うっ…いきなり水無月さんが入ってきて…美花を……」
グスッと涙混じりにまだ血が出ている左腕を見せた。
刺した自分の刀はとうに血を払い鞘に収まっていた。
「っな…!本当か水無月!」
「……」
恋次の追求に、押しかけてきた隊長や副隊長の方をゆっくりと振り返る。
その目には美花など映していない。
「違います」
静かに、そしてはっきりと言った。
けれどそんな言葉は今の恋次には通じない。
「じゃあ誰がやったっつうんだよ!」
「……花椿第七席です。私は卯ノ花隊長に頼まれてここに来ただけですので」
その落ち着いた雰囲気に、焦ったのは美花。
(ちっ…ちょっとは慌てなさいよ!ったくこうなったら…)
「うわあああああんっ!恋次さぁん!」
ガバッと泣きながら恋次に抱きついた。
元々隊は違えどよく面倒を見ていた可愛い後輩だったので、冷静な判断も何もかもが彼には存在しなかった。
「ひ、ひどい…っ私、私……ッ」
「大丈夫だ美花、俺は信じてる。
てめぇ水無月…よくも美花を!」
「ええと……」
「何の騒ぎだ?」
人混みの中やってきたのは、葵の直属の上司である日番谷。
「日番谷隊長…水無月が美花を意味もなく斬りつけたんです」
「…何?」
怪訝そうに眉間に皺をよせて、日番谷が一人部屋の真ん中に立つ葵を見た。
「本当か?水無月」
「違います」
「違わねえだろうが!」
ため息を、一つだけついた。
これ以上何を言ってもダメだろうな、と悟った。
ここにいるのはほとんどの隊長。
一つや二つ欠けている隊はあるかも知れないがそんなの数には入らないだろう。
この場にある二十以上の瞳が何を考えているのかくらいは分かった。
「水無月、一体…」
自分の部下へ向ける言葉を日番谷が言い淀んでいる内に、雑踏の中から誰かの声が聞こえた。
見損なった
それでも葵は表情を変えることすらない。
それはただ、変えることが出来ないからなのだけど、それが出来たとしても自分の顔には何も浮かばなかっただろう。
「そうですか」
と呟くだけ。
下らない、とさえ思えない。
どんな上司に暴言を吐かれたとしても、その言葉に意味はないのだ。
「朽木隊長、水無月 の奴どうします?」
「…直属の日番谷に判断を委ねるべきだが、今は花椿から遠ざけた方が良いだろう」
「はい……可哀想にな、美花…」
恋次の腕の中で、美花がわざと葵だけ見えるようにニヤリと笑った。
けれどそんなものが葵に通じた様子は見られず、ただ見つめ返されるだけだった。
(…なに平然と見返してんのよ、悔しがりなさいよ。もっと悲しみにくれた顔でも見せたらどうなの?これじゃあやった意味が……)
「けど、誰がこの女を遠ざけるんですか?」
「あ、僕がやろか?」
喧騒の中から声を発したのは、三番隊隊長の市丸ギン。
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