―四番隊患者入院棟
瀞霊廷内にあれど、四番隊の隊舎から少し離れたその建物内は、昼間にも関わらず暗い。
障子も窓も全て、閉ざしたままの白い病室。
「またこんなに部屋を閉めきって…たまにはお日様を浴びないと体に毒ですよ?」
「……はい」
毎日様子を見に来る四番隊員にも小さな返事を返すだけ。
そんな少女に隊員はため息を吐き、業務的に幾つか質問をすると、静かにそこから立ち去った。
そこには同期の隊員が待っていた。
「その部屋の子、どんな患者?」
「患者じゃないんだ、一応俺らと同じ四番隊の隊員だよ」
「隊員が入院?」
「ああ、何でも配属された時から酷いショックを受けてて、ずっと部屋に閉じ籠りきりなんだ。早く気持ちが回復するといいんだけど……」
「へぇ…女の子?」
「女。確か名前は…四楓院 空、だったかな」
――――――……
とりあえず殺那と別れはしたものの、この雨に打たれた散々な隊服は変えなければと思った葵。
予備の隊服を部屋から持ち出して更衣室で着替えた。
まだ水が滴っている隊服は、更衣室内で人に見付かりにくい死角を見つけたので、そこにかけておく。
(…見付かりませんように)
何と無くその場で手を合わせてから更衣室を出た。
本当はすでに謹慎中の身。
廊下を歩いているところを誰かに見られてはマズいため、極力人目を避けて自分の部屋に戻った。
けれど。
ガタンッ ガタッ ズズズ…
明らかに部屋の中で音がする。
しかも尋常な音ではない。
このまま部屋を放置して去りたい気持ちを押さえ込んで息を一つ吐く。
そのまま自室の入り口である障子を開けると、数人の女子隊員と目が合った。
それぞれが箪笥の引き出しや小机を引っくり返している最中で、押し入れの中の布団や枕も全部放り出されていた。
「あらおかえり水無月さん」
「お部屋掃除しておいてあげてるからね〜」
そう言って部屋の隅にあった花瓶を畳に叩き付けた。
ガシャン、と砕けた破片が葵の目の前で散らばった。
以前使っていた物なので中身は入っていない。
「あ、勘違いしないでね。良々がやれって言ったんだしー」
「そうですか」
楽しそうに笑っている女子隊員へそう返すと、特に声に抑揚もつけずに。
「その引き出しは何回か叩かないと開きませんから」
「は?」
「終わるまで失礼しますね、あまり壊せる物もありませんが……」
まあ、今まで散々な事をされてきているため、部屋を荒らすくらいでは全く心が揺れなくなってきた。
元々、ギンや乱菊等の周りを巻き込まなければ、葵にとって苦しい事はあまり無いのだ。
「…何あんた、悔しくないわけ?」
「悔しい、と言うのは良く分かりませんが……多分」
と言って再び障子を閉めた。
中からいささか凶暴になった破壊音が聞こえてきたがそれは気にしない。
コレくらい言えば数十分ほどで飽きて出ていくだろうとは分かるけれど、その数十分をどうするかが問題だ。
今は謹慎処分中。
それすら破ればまじめに除隊も免れない。
しかし行く宛もないジレンマに葵が無表情で悩んでいると。
「葵ちゃーん♪」
とても良いタイミングで明るい声がした。
下を見ると、桃色の髪。
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