「ねえ美花…あんた何でなんにもしないの?水無月なんてどうでも良くなったの?」

「えぇ〜どうしてそんなこと言うのぉ?美花悲しい、グスン」

「ふざけないでよ」



アタシがそう言うと、ケロッと美花は今まで流していた涙を止めた。
よくまあここまで目から水を流せるわよね。



「別に?ただ今は、良々ちゃんが良い方法思いついたって言ったから任せてるだけだよぉ。あれ、失敗したんだっけ?」

「…っ!」



ああ、ほんっとウザい女。
嫌いな対象が同じだから手とか組んでやったけど、本当に癇に障る。



「千匹皮で水無月に化けて松本とかおびきよせてぇ、その隙にあんたの従順な男の子達と檜佐木君にボッコボコにさせるつもりだったんでしょ?次の日ケロッと水無月来てんじゃん」



そうだ。
あの、美花より忌ま忌ましい水無月葵は、九番隊の男隊員に襲わせた次の日も普通に出隊してきた。
怪我なんて何ひとつなく。

九番隊の男隊員達はなぜかズタボロにされて入院中だから文句も言えないし。
檜佐木は「山に埋められた」とか訳分かんないこと言ってるし。
それでも昨日水無月が総隊長に呼び出されたから、ついに除隊だと思って喜んだのに、また今日は普通に出隊してるみたいだし。

何なのよこれは。
どうしてアタシとギンの邪魔をする奴がいつまでも生き残ってんの?



「そういえばぁ」



おもむろに美花が喋りだした。



「水無月がさっき自分の部屋から出たって聞いたけど」

「…だから何?」

「もぉ〜、だから何か今日の午前中だけ休みらしいってこと。日番谷隊長通して聞いたんだから間違いないし。一人で散歩でもしてるんじゃない?」



『午前中だけの休み』。
それを聞いて、アタシの口は不意にも笑みを作った。
自分でも分かるほど歪んだ笑みを。
午前中だけ非番なんて例外だ。
つまり、水無月の味方(っつっても松本くらいだけど)は勤務中だから動けないってことよね?



「あ、何かするんだぁ〜」



当たり前じゃない。
たまには役に立つのね美花も。



「美花、ちょっとアタシの顔殴って」

「…ふふっ」



美花は思いきり右手で向かい合っているアタシの左頬をはたいた。
微笑みながら、でも目の奥は笑っていない。
けれど良い感じで頬は赤くなった。



「…アリガト、これで女友達へのダシに使えるわ」



結局皆、アタシが怪我して泣いて戻ったら、水無月だと思うのよ。
単純すぎて笑えちゃう。



「じゃあ良々ちゃんがんばってねぇ〜」



後ろから甲高い声で叫ぶ美花を無視しながら、アタシは今までいた更衣室を出た。












――バタンッ


「……ふふ、行った行った」



私に騙される男達も馬鹿だけど、良々もいい加減馬鹿ね。
美しい花には棘がある。
でも私はただの花に成り下がる気なんてないの。



棘の先には、毒を塗るの。

どんなものでも殺してしまう毒を。



良々なんて所詮造花だわ、毒なんて塗らなくても勝手に舞台から降りていく。
そんなんじゃない、私が心の底から絶滅させたい花は。



「…水無月、葵…」



ああ憎くて憎くて仕様がない女。
日を照らしても水を与えすぎても虫を放っても決して枯れない恐ろしい花。
私は馬鹿じゃない。
自分の手は汚さない。

馬鹿な良々。
本当に私があんたと手を組んだと思ってる。
あんたは女王の駒が精々良いところよ。
いいえ、駒としての価値さえ…………



…価値?




(へえ、幾らだい?)




とっさに耳を塞いだ私は、馬鹿?
もうどこにもいるわけないじゃない、
あんな奴。
あんな醜い奴。
私が育った場所の中で最も汚かった。



「…馬鹿馬鹿しい」



あいつを思い出すたび、水無月の顔が浮かぶ。
腹立たしい。
どうしてあんたは…そんなに…



そんな、に…












――――――…



「……ありえへん」

「……てか、無理でしょ」

「これはなあ……」



葵共々総隊長に呼び出された時、手渡された一枚の書類。
それをギンと一緒にこっそり見ている私。



【四番隊負傷者報告書】



最初は総隊長が何を言ってるのか訳分からなかったけど、書類の一番最後をみて納得した。



「なーして僕が九番隊の隊員をズタボロにした犯人になっとるんや」

「本当にしてないんでしょうね」

「お前と一緒に葵捜しとったやん」



まあそうね、ほとんどギンは私と一緒にいたから出来るはずないのよね。
美花派のフリをしているギンがそう簡単に手を出せるはずないし。



「でもこの隊員達、正面から斬られてるって書類に書いてあるわよ。マジで見たんじゃないの?」

「僕の偽物をか?」

「さあ、生き霊かもよ」

「僕らもう死んどるやん。大体偽物作ったり幻覚見せれる奴なんて……」



不意にギンが言葉を区切った。
何かを考えるように黙り込んでいる。



「何?」

「…いや、一瞬藍染さん辺りがやったんかなと思ったんやけど多分違うわ」

「藍染隊長が?何で?」

「何や大きな企み事しとるんやけど、昔部下だった僕を引き入れたいんやて。でも僕はそんな気さらさら無いやろ?」

「そりゃそうよ、葵もこっちにいるんだし」

「せやから、葵をどうこうすれば僕が自分側に来るんやないかと考えてそうやなーと」

「ええ、さすがにそれは考えすぎじゃない?」

「せやな。それより、僕が九番隊の隊員を襲ったかもしれんて皆知っとんの?」

「知らないでしょうよ。ここに『あまりに根も葉も無いから口外は禁止されている』って書いてあるわ」



大体何でギンの名前が出てきてるわけ?
これも美花か良々の陰謀なのかしら。



「……だめ、分からなすぎ。パス」



そう言ってギンに書類を押し付けた。
一瞬良々が千匹皮の能力でも使ったのかと思ったけど、あれは顔や姿だけで大きさは変えられないみたいだし。
良々がギンに擬態したら、きっとミニサイズのギンが出来上がるわ。



「パスって言われてもな…第一ここ暗くてよく読めへんやん」

「しょうがないでしょ、屋根裏なんだから」



他の隊員にバレずに会うなんて、こんなとこじゃない限り無理なのよ。
二度と蔵書庫のような真似は御免だわ。



「それより、あんたはしっかり花椿探ってる?」

「探っとる探っとる。けど何や良々ちゃんばっかり寄って来てなー」

「そりゃそうよ……」



前なんて廊下で堂々と後ろから抱きついてたものね、風音とか言う奴。
アピールとしては正しいんだけど、無闇な接触は多少なりとも意識してる相手じゃないと効かないのよね。


 



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