五日目。
殺那が任務で抜けた時、恒例のように女子隊員での暴行が行われていた。
この頃は逆に、その時以外は何もされないので呼び出されるタイミングが分かるようになってきた。
仕事内容の連絡やら、失くした物の行き先を教えるやら、呼び出す理由は様々だ。



「あースッキリした。しょうがないよね、良々のためだもん」

「そうそう、自業自得なのが悪いんだって」

「花椿さんのこともあるしね」



(……何を言ってるんだろう)



腹部の遠ざかっていく痛みを感じながら、葵の思考はハッキリしていた。
一人の女子隊員に鬱憤を晴らしている自分を認められずに、良々や美花を理由にしているだけだ。
だから名目は『悪者への正しい制裁』。



「でもさー、そろそろ物足んなくない?」

「あ、私小刀持ってきてるよ」



歓声を上げながら女子達が倒れている葵に寄って来た。



「……何か?」



淡々と葵がそう聞くと、刀を持っている女がくいっと顔を持ち上げた。
そして射抜くように冷ややかな視線で見つめてくる。
それを静かに見返していると、風を切るように振られた刀が頬を切り裂いた。
ピリッとした痛みが走っても、葵の表情は変わらない。

傷跡から血が流れても、そこにある整った顔立ちの欠片も損なわれない事が、また嗜虐心を煽った。



「……何あんた、少しは怯えた顔でもしなさいよ」

「…………」



そうする事が出来たならどれほど良いだろう。



「もう良いじゃん、もっとズタズタにしちゃおうよ」

「ちょっとキレイだからって調子に乗ってるしさあ」

「そうね……じゃ、バイバイ水無月さん」



そう言って大きく刀を振り上げた時。





――九番隊の水無月葵は至急山本総隊長の元へ出廷せよ。繰り返す…――





「「「!」」」



瀞霊廷全体に響く大きな声が、ここにも届いた。



「うわ、水無月さん総隊長から呼び出しくらってるよ」

「やっぱり総隊長様は公平ね、ちゃっちゃと行ってきてよ」

「…………」



女子隊員達はクスクス笑いを発しながら、こう言う時だけはさっさと葵から体を離して去って行った。
放送はまだ続いている。



――九番隊の水無月葵は至急山本総隊長の元へ出廷せよ。同伴がいても構わない。繰り返す……――



(…同伴?)














「……やっぱりお二人ですか」

「「ちーっす」」



葵が好奇の視線の中、山本元柳斎のいる一番隊隊長兼総隊長室へやってくると。
なぜか張本人よりも先に来ている乱菊とギンの姿があった。



「同伴って言われて私達が行かなかったらどうするのよ」

「そうじゃぞ葵。そのために名前を出さずに『同伴』と流したのだからのう」

「総隊長……」



はあ、と息を吐いて元柳斎の前に座った。
自然と右に乱菊、左にギンがいて挟まれる形になる。



「それで……何か御用ですか?」

「なに、難しいことではないわい。最近お主によからぬ噂が立っていると聞いておるのじゃ」

「…………」

「火のないところに煙は立たぬ、と申すな?」

「ッ何を…」



乱菊の反応に元柳斎は少しばかり目を開いて、無言の堰でいさめた。
代わりに葵が言葉を取り次ぐ。


「…はい、おっしゃる通りです」

「ならば話は早い」



一呼吸すると、元柳斎は厳かに告げた。



「水無月葵を瀞霊廷から追放する」



「「!」」



はあ!?と声を漏らす二人の間で少しも変わらない葵へ、元柳斎は。



「仲間へ刀を振るい更に反省もなく他の隊員へも手を上げたらしいのう。数名の隊長からもそのような要請が来ておるのじゃ」

「てめぇ何ふざけたことぬかしてんだゴラァ!」



いきなり元柳斎に掴みかかった乱菊。



「今何つった!?今何つった!?その邪魔以外何者でもないヒゲ引き千切んぞ!」

「乱菊さん落ち着いてください。素で怖いです」

「乱菊どーどーどー」

「何落ち着いてんのよギン!私は馬じゃないわ!これは何?コイツを殺して私も死ねって言うお告げ!?」

「乱菊さんコイツって総隊長ですよ。そんなの嘘に決まってるじゃないですか」

「嘘なん?」

「当たり前じゃろうが」



…プチッ



「……あ、何か切れましたね」












――――――…


「いやはや、すまぬの。儂もちと悪ふざけが過ぎたようじゃ」

「ふざけ過ぎですよ!バカじゃないですか!」



バカが自分を指しているのか元柳斎を指しているのかは置いといて。
絶妙なタイミングで手刀をくりだしたギンにより正気を取り戻すことが出来た乱菊。



「総隊長様はおちゃめな悪戯が好きなんです。許してあげて下さい」

「じーさん…あんたおちゃめ何て言葉似合う歳やないやろ…」

「童心は忘れたくないもんでの。しかし儂が言うたことは近からずとも遠くはない。嫌な噂ばかり耳に入って来ておる」



ふむ、とため息をついてから、ゆっくりと葵を見た。
少女は相も変わらず美しい面立ちで表情を潜めている。



「……知っていたんですね」

「市丸が敵側のフリをしておることもな」



だから呼び出す際に名前を使わずに『同伴』と隠語を使った。
それも一度のみ。

葵には、同伴と流れただけで飛んでくるような仲間がいることも。
またその仲間がギンと乱菊であることも知っていた。
自分が葵と出会う前から、この三人は一緒だったのだから。



「落ち着いて聞け…と言うても、すでにお主はこれ以上なく落ち着いておるの。儂はお主がそんな噂の当事者になるほど愚かな者では無いことくらい知っておる。今はお主よりも、そっちの市丸の方が問題じゃ」

「……僕?」

「左様。一昨日、九番隊の男隊員四名が体中切りつけられて大怪我を負っておる。知っておろう?」



九番隊の男隊員四名と聞いて、ああ、と思い出した。
刹那と初めて会い、檜佐木を刀の山から救いだした帰り道。
三人で見つけた体中傷だらけの九番隊の隊員達。

葵が彼らにリンチを受けたことも背骨を折ったのが彼らだと言うことも話さなかったけれど。







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