今日は定例集会の日。
上位三席の出席が義務付けられているので、三番隊のギン、九番隊の殺那、十番隊の乱菊が集まる事が可能だ。
しかし、その事は特に意識せず大広間に集合時間よりも早めにやって来た殺那。
九番隊の席に着いた時、ふと視線を上げて顔を上げると。



「っ!?」



物凄い眼力でバラバラな所からこちらに視線を送ってくるギンと乱菊を見つけて肩がはねた。
二人が同時に上へ向けて顎をしゃくったので、あ、はいと頷く事しか出来なかった。





大広間がある総合隊舎の屋根の上。
瞬歩でそこまで移動すると、すぐにギンと乱菊もやってきた。



「すまんなあ、こんな呼び方で」

「他の隊長とかもいたから喋れなくてね」

「いえ……何事かと思いましたが」



なぜ屋根なのかと問いかけたが、人目が無いからだろうとすぐに分かった。
総合隊舎は他の建物よりも抜きん出て高い。



「けど葵の昔の副隊長さんがこないに近くにおったとはな」

「そうそう。九番隊の三席がいつも空席だったから、何でなのか不思議だったのよね」

「ああ。零番隊の解散後に色々移動がありまして……葵様が隊に入ると言うので俺は現世任務に飛ばされていたんです。接触が無いように」

「「それ!」」

「え!?」



とある言葉に食いつき、ずずいっと目の前に二人して迫り来る。



「その零番隊とか言うの僕らあまり知らへんのや」

「他に聞ける人もいないし触れちゃいけない気がして、もう檻神が来るまで私達の生焼け具合と言ったら!」

「それ言うなら生殺しな」

「そ、そう言うことでしたか…」



すでに座り込んで話を聞く気満々な二人に苦笑しながら、携帯用の筆と紙を取り出した。

車座になり、さらさらと紙に書き込みながら話をしていく。
下に一から十三までの漢数字を書き込み、その上に零番隊と書いて丸で囲んだ。



「零番隊はこのように、下にいる護廷十三隊を統括するのが仕事です。統括と言うよりは、監視や尸魂界の守護が主な仕事なのですが」

「やっぱり十三隊よりは上なのね」

「そうですね。以前隊長格や貴族の中で汚職や癒着が目立ちましたので、それらの解決や牽制に使われていた時期もあります」

「うんうんなるほどねー」

「すまんな檻神君、分かっとらん奴は置いてってええで」



大丈夫ですよ、と笑いながら筆を動かした。



「なので護廷十三隊を取り巻く不穏な影などが取り除かれた場合、俺達は解散します。なので今、こうして九番隊にいる訳ですが」

「へえー、他の隊員も檻神君のような貴族なん?」

「貴族の出も何人かいましたが……大体は元々護廷十三隊にいた者から引き抜かれてますね」

「え、何か凄そうな隊なのに意外ね。もっと世界を十回くらい壊せそうな隊員ばかりだと思ってたんだけど」



どんなんや、と突っ込みを受ける乱菊に、また笑ってしまった殺那。
葵の側にいた二人ということもあって元々安心感は持っていたが、こうまで興味を隠さず接してくる事が新鮮だった。



「強いに越したことはありません、しかし他にも様々な基準があります。零番隊の隊員になれるかどうかはそれを満たしているかに寄るんですよ」

「例えば私だったらどう?」

「あ、僕も僕も」

「お二人は恐らく…難しいでしょうね」

「え、何でよう」

「まず職務怠慢があってはなりませんし……」

「う」



ぐさりと見えない矢印が乱菊に刺さった。
ギンはこういう答えが来ると予想していたのでノーダメージだ。
殺那はさらさらと紙に文字を書き足していく。
勤勉、人との和、斬魄刀の性質……



「と、様々な項目がありますが……最も大切なのは隊長の命令に必ず従えるか、という点です」

「葵の?」

「はい。隊長の命令であれば副隊長の俺でも殺しにかかってくるようでなければいけません。まず疑われるのが零番隊隊員のなりすましなので」

「まあそこまで権限持っとったら、成り代わって悪用する奴多そうやな」

「ええ。それに歴代から見ても零番隊の隊長は若いので、特に指示に従える隊員を重点的に選びました」



その結果、と呟いて紙の上の『零番隊隊長』の部分をグルグルと太く囲んだ。



「……かなり葵様主義な隊員が増えましたね……」

「……せやろねえ……」

「あの見た目はねえ…近くにいるとちょっとビビるけど、上にいると崇拝対象になるのよね」

「葵は手の届かない位置にいる時が一番素直に容姿を見てもらえるよな」



目に浮かぶ、葵の命令を何でも喜んで聞き、大切にし、真綿で包むように慕う隊員達が。
その真ん中で非常にやりにくそうにしている葵が。



「なので人前に出る仕事は大体俺の役目でした」

「分かる分かる、シンパ増えて仕方ないものね」

「じゃあこの辺にも元零番隊の子がおるかもしれんなあ」

「接触可能な範囲にはいませんが、何かのきっかけで会うことがあるかもしれませんね」



それから会議が始まるまで、殺那の零番隊講座は続いた。





遠くで、定例集会が始まる鐘の音が聞こえた。
葵はふと顔を上げ、遠くに映る大きな総合隊舎を見やる。
いじめが始まってまだ四日。
葵にはずいぶん長い間のように感じられた。

昨日思わぬ形で殺那が同じ隊にいたことを知り、その殺那が隊員達に目を光らせてくれるようになったため、あれからリンチの呼び出しはなくなった。
しかし、今日は上位三席が定例集会で席を外している。

当然、殺那もいない。



「ねえ水無月さん、仕事まだ?」

「あ、出来ています」

「あっそ」



パシッと仕事済みの書類をひっつかんで去る隊員が後を絶たない。
九番隊の一部の隊員は葵に仕事を押し付け、上司が見ていない隙に出来上がったソレを当たり前のように持って行った。
上位三名が不在なのと、葵を呼び出して暴行を加えた四人の男隊員達は何者かにズタボロにされていたため入院。

今の九番隊には女子しかいなかった。
止める者が減ったため黙々と仕事をしていた葵をすぐに標的にする。


バシャッ


水音と共に、いきなり視界が黒ずんだ。
思わず反射的に目を閉じたが、何をされたのかはすぐに分かった。
机の上の書類に黒い雫が滴ったから。




「きゃー、キレイじゃん水無月さん」

「あんまり肌が白いから心配しててさあ」



そう言って手にすずりを持った女隊員がはしゃいだ。
かけられたのは墨汁だった。
とりあえず、隊服にはかからなかった事に安堵する。



「……何コイツ、黙りっぱなしなんだけど」

「プライドとかないわけ?」

「唇に紅も引かないで…さ!」



女隊員がもう一つのすずりの中身を葵めがけて振った。
書類に滴った黒い水の上に赤い雫が増える。



「あはははスゴーイ!能面みたい!」

「似合ってるじゃん」



今度は添削に用いる赤い墨。
もう手元の書類は破棄が決定したので、嘲笑の中黙って席を立って手拭いを取った。



「そのままで過ごせば良いのにー」



またドッと沸き上がる笑いの中、葵は聞こえていないかのように隊室を出た。
本当に聞こえていなかったのかもしれない。








騒がしい隊室を後にして、裏庭のカエルの池へやって来た。
本当は池に何か名前があるのかも知れないが、乱菊と『カエルの池』と呼び合うのが好きなのでそのままそう呼んでいる。

むう、と葵が池を覗きこむ。
確かに、能の隈取りのように赤と黒で彩られた自分が映った。



(…私、そんなに肌白いかな…)



先ほどの女隊員達が投げつけた言葉で唯一気にかかったのはその言葉だった。
葵は昔から自分の容姿をいまいち把握出来ていない。
乱菊もギンもこの顔を褒めてくれるし、周りからそのような賞賛を聞いたこともある。

ただ、この顔で良い思いをしたことも、嫌な思いをしたことも、同じくらいあった。



(……洗おう)



池の水ではカエルにダメージが及ぶので、近くに設置されていた水道で墨を落とす。
機械的に手は動いても、頭の中は昨日のことでいっぱいだった。

殺那が九番隊の三席だったこと。

変わらず自分を慕っていたこと。

檜佐木がボロボロだったこと。

四人の男隊員がズタボロだったこと。



檜佐木の傷は比較的浅く、今日も普通に職場復帰できている。
しかし、葵に暴行を加えた男隊員達の方はかなり重症で、口も聞けないらしい。



(殺那はまだ分別があるけれど…あの隊員達は…)



殺那は顔を見られないよう檜佐木を後ろから襲った、それが普通だ。
けれど、倒れていた男隊員達の傷は正面からついていた。
顔を見られても良いと思っていたのか、単に理性を失っていたのか。
どちらにせよ。





男隊員達は見ている。

『犯人』の顔を。







back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -