鉄屑の山に埋もれた檜佐木救出にそれから十分ほどかかった。
何しろ刀類の山なので、むやみに引っ張れば檜佐木のあちこちが切れてしまう。
ギンと殺那がそのまま頸動脈が切れても引っ張ってしまえと言ったけれど、乱菊と葵が反対したので救出になった。
「にしてもコレ、檜佐木君気ぃついても自力で出られんで」
「それを狙ったのですが」
しらっと答えた殺那。
「…葵、あんたうちのギン並にブッ飛んだ副隊長持ってんのね」
「……殺那は基本的に不暴力な死神なんですけどね…」
少なくとも葵と共に仕事をしていた頃の彼は、自由のきかない自分の代わりに零番隊を動かしていた統率力に長けた者だった。
どんないさかいが起こってもその口達者で冷静にその場を収めることが出来たので、何かの罰以外、彼の喧嘩に拳は不要だ。
(人が変わる、と言うのはこう言うことなんだろうな……)
『檻神家』は本来四大貴族の中で最も血を好む戦闘的な一族なのだが、そこの現当主である殺那はまったくそんな要素を持たない珍しい存在だった。
けれど、自分のプライドや零番隊のこととなると、殺那はやはり流れている檻神の血を抑えることが出来ないらしかった。
「なるほどね…檜佐木を潰しておいて入れ代わったってわけ」
「はい。隊員達は上司なら誰でも良いようでしたので」
カチリと手首に付けていた霊圧制御装置を一つ外した。
少し空気の霊圧が濃くなったが、全員副隊長や隊長クラスなので影響はなかった。
「…葵様、治療いたします」
「……ありがとう」
腕に抱き上げていた葵をギンに一度手渡した。
「……葵、怪我したん?」
「葵様は背部の裂傷と腹部の打ち傷がひどいです」
「「!」」
背骨は男隊員達の容赦ない蹴りで傷ついてしまった。
腹部の打ち傷は四番隊に行くことが出来ずに、また見えない部分に痛々しいあざが重ねられている。
「あんた…背骨折れてるならもっと痛そうな顔しなさい!気付けないじゃない!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないわよ…っ、まったくあんたって子は……」
乱菊が涙ぐむたび、葵は申し訳ない気持ちになる。
ギンと乱菊が悲しむ事がこの世で一番自分の心を苦しめる。
それでいて、ごめんなさいと言いながら、これからもきっと表情に出せないであろう自分が。
憎らしいのか、腹立たしいのか。
そんな葵の葛藤をよそに、檜佐木が葵のいじめに加勢しようとしていたことを知ると、ギンの笑顔が黒い物になった。
「乱菊、僕は葵抱いとるから……」
「分かった、代わりに檜佐木殺っとくわ」
「ダメですダメです」
乱菊まで加わってしまい、血祭りを押しとどめる役目は葵だけになってしまった。
「と言うより檜佐木副隊長は未遂なんですから……乱菊さん?何で刀抜いてるんですか?何で檜佐木副隊長の頸動脈に当ててるんですか?」
――――――……
「…治療終わりました」
「はー、凄いわね零番隊席官ってのも。治癒霊圧まで使えるの」
「人手が少ないので席官しかいませんがね」
檜佐木狩りを引き止めて霊圧で治癒してもらい、歩けるようになった葵。
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