廊下で遭遇したやちるに連れられ、十一番隊の隊室前までやってきた葵。
なぜ十一番隊の入り口(引き戸)だけが刀傷やら殴ったへこみ跡やらが多いのかは深く考えなかった。
自分の数倍大きい扉をやすやすとやちるが開けて入るので、それに従った。



「剣ちゃーん!連れてきたよ!」

「おお」

(……あ、これ体か)



扉を開けてすぐの所に剣八が仁王立ちで待ち受けていた。
あまりに近かったので一瞬壁と認識しかけた。
その後ろにちらほらと席官達の姿も見える。



「単刀直入に聞く」



両の腕を組んでいる剣八がギロ、と目だけを動かして葵を睨んだ。



「…自分の隊の奴らを襲ったってのは、本当か?」

「違います」

「嘘つくんじゃねえぞ」



次の瞬間、瞬きもせずに霊圧を上げた。
一度縦に隊室が揺れ、それから細かく上下に震え出す。
何の前触れもなく行ったので、辺りでバタバタと隊員が倒れ始めた。



「ちょっ隊長…コレ俺らでもキツい……い!?」



剣八とやちる以外が膝をついてしまった中で、葵だけが微動だにせず立っていた。
この部屋に入ってきた時のままの角度で剣八を見上げている。
いや、それをも通り越したどこか遠い所を見ている。



「…ハハッ!」



剣八が一笑して霊圧を下げた。
近くでドタドタと隊員達が倒れていく音も聞こえないかのように、やちるが抱きついている葵へ顔を近づけた。



「てめぇ何者だ?」

「九番隊の平隊員です」

「嘘つくなっつったろうが、てめぇはんなタマじゃねえよ。これだけ浴びてつっ立ってる平がどこにいる」



あ、と口を開く。
今頃気づいたようで、辺りの倒れている隊員達をきょろきょろと見渡してから。



「く……」

「いや遅ぇよ、何膝ついてんだ」

「もう剣ちゃん、今日は葵ちゃんと遊ぶために呼んだんじゃないでしょー。葵ちゃんが本当に犯人か聞くだけって言ったじゃん」

「おお、そうだったな」



ポンと葵の頭に手を置いて、口の端を吊り上げた。
にいい、と言う笑い方がほんの一部分ギンに似ていると思った。
見るからにまがまがしい笑みだけど、悪意は感じられない。



「………あの」

「あ?」

「なあに?」

「……状況が未だに掴めないのですが…」








――数分後


「いやー悪いな、何も教えてなくてよ」

「いえ」



ニコニコと笑う一角に隊室中央の椅子に座らされてしまった。
当然周りからの視線が痛い。
ここで書類仕事をしている隊員など皆無らしく、ほとんど全員がこちらの会話に興味を持っていた。



「お前が自分の隊の…花椿だったか?を斬ったって聞いてな。それでとんでもねぇ奴だなって言い合ってたら今度は風音と来たもんだ」



やちるに出された甘酒を持ち(ついでにやちるを膝に乗せ)一角から説明らしきものを受ける。
どうやら一番最初に美花を斬ったと誤解されたあの場所に、剣八はいなかったようだ。
それではやったかやってないか判断のしようがないため、直接容疑者を連れてきて聞いちまえ、と言う流れになったらしい。

容疑者=葵。



「…私はそれで連れてこられたんですね?」

「そーだよ!本当に斬ってたら十一番隊に入れようって思ってたんだけど、葵ちゃん剣ちゃん見ても顔変えないんだもん。びっくりしちゃった」



確かに気圧される顔ではある。



「それで、どう?剣ちゃん。葵ちゃん斬ってそー?」

「いや、白だろ」

「なんで?」

「勘」



ちょっとズルッと行きそうなのをギリギリ食い止める葵。


「勘……ですか」

「俺はてめぇがどいつを斬ろうが知ったこっちゃねえ、やられた花椿と風音が悪ぃ。いいか、こいつは白だ」



そう言ってギロリと席官達を睨むと、敬礼のおまけ付きで承諾をした。
剣八の権力を身を持って知った。



「まあ僕は最初から疑っていなかったけどね」

「弓親……お前『見てみなきゃ何とも言えない』っつってたじゃねえか」

「何を言っているんだい一角。こんなに美しい人が一体何を持って人を傷つけなどすると言うのかな」

「でも本当に葵ちゃんがあの二人斬っちゃってたら良かったのにねー」



今、凄く珍しい意見を聞いたような気がした。
しばし膝の上のやちるを凝視する。



「だって香水の人も化粧の人も近くにいると苦しくて息できないんだよ。やちるいっぱい息するからすっごい嫌なのっ」



解読すると。
香水の人=美花。
化粧の人=良々。



(…まあ花椿第七席の香りは、強いけど…)



あのむせかえるような花の匂い。
たとえこの場にいなくとも、すぐに思い出すことが出来た。



「え、でも花椿君は良い香りじゃない?」

「ゲッ、お前あんな香水女が良いのかよ。てめぇみてぇのがいるから花椿の周りには男が絶えねぇんだよなあ……」



そんな世間話をしていると、隊室の扉が外からノックされた。
はーい、とやちるが元気に返事をすると。



「こんにちはぁ〜、十番隊の花椿ですぅ。書類お届けに来ましたぁ」



その瞬間確かに時は止まった。
たった今まで会話に出てきたものが扉一枚向こうにいるため、隊室内の隊員全てが凍っていた。(ただし剣八、やちる、葵は除く)



「入っていーよー」

「はぁい」



やちるの返答に、満面の笑みで入ってきた美花の周りには、数人の男隊員がくっついていた。
意気揚々と入ってきた美花の表情が、部屋の中央に座っている葵を見て引きつる。

あれほど涙や笑顔の出し入れが自由にできる美花でも表情を隠せない事かあるのかと、新たな発見をした。


 



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